2017年07月03日

2017年6月30日 いわゆる「共謀罪」の創設を含む組織的犯罪処罰法改正法の廃止を求める意見書

2017年6月30日、JELFは『いわゆる「共謀罪」の創設を含む組織的犯罪処罰法改正法の廃止を求める意見書』を提出いたしました。

提出先は、安倍晋三内閣総理大臣、金田勝年法務大臣、岸田文雄外務大臣、大島理森衆議院議長、伊達忠一参議院議長、鈴木淳司衆議院法務委員会委員長、秋野公造参議院法務委員会委員長の7名です。
また、自由民主党、公明党、民進党、日本共産党、日本維新の会、自由党、社会民主党、日本のこころの8政党にも送付しています。

提出した意見書は、文末PDFファイルよりご確認下さい。

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内閣総理大臣    安倍晋三 殿

法務大臣          金田勝年 殿

外務大臣          岸田文雄 殿

衆議院議長      大島理森 殿

参議院議長      伊達忠一 殿

衆議院法務委員会委員長 鈴木淳司 殿

参議院法務委員会委員長 秋野公造 殿

 

いわゆる「共謀罪」の創設を含む組織的犯罪処罰法改正法の廃止を求める意見書

JELF(日本環境法律家連盟)は、いわゆる「共謀罪」の創設を含む組織的犯罪処罰法改正法が衆議院及び参議院において強行採決されたことに強く抗議し、同改正法の速やかな廃止を求めます。

2017年6月30日

名古屋市中村区椿町 15-19

学校法人秋田学園名駅ビル 2 階

日本環境法律家連盟(JELF)

理事長 弁護士 池田直樹

 

 いわゆる「共謀罪」の創設を含む組織的犯罪処罰法改正案は、本年3月21日に法案が閣議決定されて国会に提出され、野党が審議継続を求め、国民世論の多数も慎重審議を望む中、5月19日に衆院法務委員会で、5月23日には衆院本会議で各強行採決され、参議院においては、6月15日、参議院法務委員会の中間報告がなされた上で、同委員会の採決が省略されるという異例な手続を経て、参議院本会議の採決が強行され、同法は成立した(以下、成立した法を「本改正法」という)。

 

  政府は、本改正法について、2000年に署名され、2003年に発効した「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(国連越境組織犯罪防止条約)(TOC条約)締結のために必要であると説明してきたが、そもそも同条約は、テロ対策の条約ではなく、同条約締結のために、「テロ等準備罪」の創設は不要である。

  政府は今年1月の国会審議の中で、共謀罪を作らないとテロは防げないとして、ハイジャック犯人が航空券を買ったり、危険な化学物質の原料を調達しても、その予備罪で検挙することはできず、テロ等準備罪(共謀罪)が必要であると説明した。しかし、特別刑法の注釈書で、これらは典型的な予備行為として掲げられており、政府の説明は間違いであった。その他、政府は、国会審議の中で、法案の推進の根拠としてきた「テロ対策の穴」を具体的に指摘することはできなかった。日本には、テロや暴力犯罪など、人の命や自由を守るために未然に防がなくてはならない特に重大な犯罪約70については、共謀罪20、予備罪50があり、他に銃刀法、ピッキング防止法、凶器準備集合罪など、殺人・傷害や強盗・窃盗など重大犯罪の予備段階を独立罪化した法律も多くある。共謀罪を新設しないとテロを防げないという立法事実はない。

 

 他方、改正法によって新設された「共謀罪」には、犯罪の成立要件があいまいになるという重大な欠陥がある。

 近代刑法における犯罪処罰根拠は、法益侵害の現実的危険性が惹起されることにある。法益の侵害又はその危険性が生じて初めて事後的に国家権力が発動するというシステムは、我々の社会の自由を守るための基礎的な制度である。

 我が国の刑事法体系では、実行に着手した犯罪であっても、自らの意思で中止すれば、中止未遂として刑を減免してきた。刑法に定められた約200の罪の中で、未遂を処罰しているのは3割、予備を処罰しているのは5パーセント、共謀を処罰しているのは、わずかに1パーセントくらいである。犯罪実行の着手前に放棄された犯罪の意図は、原則として犯罪とはみなされなかったのである。

 ところが、本改正法であらたに277もの多くの犯罪について共謀の段階から処罰できることになった。これまで、原則として、法益侵害の現実的危険性が発生しなければ、国家が市民社会に介入できなかった我が国刑事法体系を大きく覆し、法益侵害の具体的危険性の有無にかかわらず、国家が市民社会に幅広く介入することが合法化されたのである。

 

 それゆえ、本改正法にて創設された「共謀罪」については、捜査機関の判断だけで、何ら法益侵害の危険性のない段階から、「一般市民」であっても、「共謀」の「嫌疑」を理由とした監視を招くおそれが払拭できない。「一般市民」のプライバシーや表現の自由が不当に制約されることが強く懸念され、国会での法案審議が始まると「共謀罪」の創設に反対する一般市民の声は、ますます広がり続けた。

 さらに、国連の「プライバシーに関する権利の特別報告者」であるジョゼフ・ケナタッチ氏からも、2017年5月18日、内閣総理大臣宛公開書簡において、「『計画』と『準備行動』の存在と範囲を立証するためには、論理的に、起訴に先立ち相当程度の監視が行われることになると想定される。このような監視の強化が予測されることから、プライバシーと監視に関する日本の法律に定められている保護及び救済の在り方が問題になる。」」「NGO、特に国家安全保障に関する機密性の高い分野で活動するNGOの業務に及ぼす法律の潜在的影響についても懸念がある。」「「組織的犯罪集団」の定義の曖昧さが、例えば国益に反する活動を行っていると考えられるNGOに対する監視などを正当化する口実を作り出す可能性がある」等との強い懸念が示され、「新法に抵触する行為の存在を明らかにするためには監視を増強することになるが、そのような中にあって、適切なプライバシー保護策を新たに導入する具体的条文や規定が新法やこれに付随する措置にあるか」について、釈明を求められたが、日本政府は、誠実に向き合うことをせず、上記の通り、衆参両議院で採決を強行した。

 

 私たちJELFは、法律的な知識や手段を使って、環境を保護する活動をしている法律家組織である。JELFの会員が代理するのは、しばしば、開発に抗して先祖伝来の環境を守るために闘っている地域の少数派の人たちであり、森や海に生息する動植物の「声なき声」である。それは、未だ生まれぬ未来の世代を代理して地球環境の守り手となる活動でもある。

 気候変動、化学物質汚染、資源の浪費など人類の思慮を欠く活動が私たち自身の生活環境を脅かし、持続的な発展の阻害要因となっていることは、周知の事実である。 

 1970年代に国内に広く発生した公害は、利益利便に目を奪われた開発や商業活動が、深刻な環境汚染を招き、自然や生活を破壊することを教えてくれた。被害に早期に気づき、社会設計を適切に修正していくためには、少数派であっても声を挙げやすい社会であり続ける必要がある。

 

 しかし、共謀罪成立前に、すでに、政府の方針や開発等に異論を唱える抗議者に対する「過激派」のレッテル張り及び警察による監視が始まっている。

 2014年7月24日には、朝日新聞が、「岐阜県警が個人情報漏洩」との見出しのもと、岐阜県大垣市での風力発電施設建設をめぐり、同県警大垣署が事業者に、反対住民の過去の活動や関係のない市民運動家、法律事務所の実名を挙げ、市民運動に発展しかねない連携を警戒するよう助言した上、計6人の学歴、病歴、年齢などの個人情報を情報提供したことを報じた。岐阜県警は、監視対象となった当事者からの「公開質問状」や「抗議・要求書」に対して、「大垣警察署員の行為は、公共の安全と秩序の維持に当たるという責務を果たす上で、通常行っている警察業務の一環であると判断いたしました。」と回答している(大垣警察市民監視事件)。

 また、沖縄では、2016年11月29日、基地建設反対の闘いに威力業務妨害罪が発動され、リーダーの山城博治さんを含む4人が、逮捕され、5ヶ月以上も勾留されている。山城さんは、1017年4月16日の東京新聞のインタビューの中で、「リーダーと呼ばれる人間を屈服させ、同時にすべての関係者の連絡先を押さえる。沖縄の大衆運動そのものを取り締まっていく国策捜査だと思う。」と述べている。家宅捜査で関係者の住所と電話番号はすべて把握され、警察は、山城議長の演説に拍手したことを「賛同」、説明を受けたことが「協議」として事件を立件している。山城議長は「もう恐怖。共謀罪が発動した時の準備がされたのだと感じた」と述べている。この組織的威力妨害罪の共謀も、本改正法の適用対象である。

 共謀罪が成立した今、警察が市民運動を「組織的犯罪集団」と一方的に決めつけ、監視を質的量的に拡大していくことは、現実的な危惧であり、政府の方針に異論を持つ市民や、少数意見を持つ市民にとっては脅威である。

 

 上述した通り、本改正法の成立過程では、参議院の採決は、法務委員会の採決を省略して委員長が本会議に中間報告し、その後に法案そのものを本会議で採決するという手法が採用された。国会法56条の3第2項の 「委員会の審査に期限を附け又は議院の会議において審議することができる」との規定に基づく運営であるとされている。

 しかし、国会法56条の3は、「特に必要があるとき」に各議院が中間報告を求め、その中間報告があって、さらに「特に緊急の必要を要すると認めたとき」に「委員会の審査に期限」を附けるか、議院の会議において審議することができるとの構造である。国会審議を通して、共謀罪新設の必要性に関する立法事実も明らかにならず、かつ、緊急を要する理由もなく、かえって多くの国民が、慎重審査を求めていた本法案の場合は、国会法56条の3の必要性、緊急性の要件に当てはまらないことは明らかであり、本改正法は、成立過程において、国会法違反の重大な疑念が残る。

 

 以上、JELF(日本環境法律家連盟)は、環境汚染の被害者となる弱き少数派や地球環境、および、未来世代の代理人として、政府の方針に異を唱える者を社会から排除し、民主主義社会の健全で持続可能な発展を阻害しかねないいわゆる「共謀罪」の創設を含む組織的犯罪処罰法改正法を衆参両議院において強行採決したことに強く抗議し、同改正法の速やかな廃止を求める。

 

以上