[トップページに戻る]


  2005年愛知万博の環境アセスメントについて

   筆者の宇佐見大司に原稿をご提供いただきました。 →[英語版]

2000.09.25     


2005年愛知万博の環境アセスメントについて

                        宇佐見大司(愛知学院大学 法学部)

 2005年3月から9月まで、日本の中央に位置する愛知県で、日本国際博覧会が開催されることになっています。この万博は、21世紀の地球が直面 する地球環境の問題に正面から取り組む万博として計画され、そのテーマも「自然の叡知」とされています。
 このようなテーマに取り組む以上、この万博の開催自体が自然破壊にならないようにしなければならないことは言うまでもありません。ところが当初、この万博の会場予定地とされたのは、愛知県瀬戸市の、通 称「海上の森」と呼ばれる地域でした。海上の森は、日本で4番目に大きな都市である名古屋(人口200万人)の近郊に位 置し、二次林とはいえ、豊かな自然と生態系を育む、都市近郊の貴重な自然として、名古屋とその周辺の人々から愛されてきておりました。ここが万博会場になれば、貴重な自然あるいは日本の伝統的な姿を残す「里山」が破壊されてしまうことになりかねません。
 それを防ぐには、環境アセスメントが十分に行われ、環境影響の徹底した回避策が取られなければなりません。
 BIE総会で愛知万博が決まった1997年6月、日本でも環境影響評価法が制定、公布されました。しかしその施行は1999年であり、また、万博自体は新法の環境アセスメントの対象事業ではなかったので、愛知万博の環境アセスメントの手続は、通 産省通達「2005年日本国際博覧会環境影響評価要領について」として定められました。
 この通達は、その冒頭において、新しく制定された環境影響評価法の精神を、その施行前において取り入れ、かつ21世紀の環境アセスメントのモデルを示すアセスメントを行うなことを掲げました。
 しかしそれから約2年半、この間の万博アセスメントの現実は、当初の触れ込みとは大いに異なり、とても21世紀のモデルといえるものではありませんでした。
 第一に、実施計画書においては、海上の森を会場予定地とすることが動かしがたい前提とされており、代替案を検討しようとする姿勢は見られませんでした。代替案を検討することは、事業者が提案されている計画の正当性、妥当性を、他の案と比較して立証するために不可欠のものだというのが、世界の環境アセスメントの趨勢といえると思います。しかし万博アセスはそのようなものとしては行われないことが、実施計画の段階から明らかであったのです。
 第二に、その手続過程は、2000年着工を目指した工事スケジュールに合わせて、形式的な手続をどんどん先行させるというやり方で進められました。たとえば、実施計画書に対しては多くの市民から意見が出されましたが、それがどう環境アセスメントの手続に反映するのかは不明のまま、10カ月後には、環境影響のための調査を終えた段階で出される準備書が出されました。実施計画書に対しては、知事も、専門家の意見を踏まえて意見を述べることになっていますが、この意見からはわずか5カ月で準備書にいたっています。これでは市民や専門家の意見を尊重しての環境影響調査が行えるはずはありません。
 準備書の公告縦覧期間終了後に、あらたに会場予定地内でオオタカの営巣が発見され、今日に大きな影響を与えましたが、これも準備書作成のための調査期間が十分保障されなかったことの現れです。
 そのオオタカ発見により、万博の会場計画は近くの青少年公園にも拡大されることになりました。当初の実施計画ではまったく予定していなかった会場変更でした。会場候補地は、海上の森のある瀬戸市から青少年公園のある長久手町へと拡大されました。海上の森と青少年公園は約3Km離れています。
 新しく会場候補地となった長久手町民が意見をいう機会を保障するためには、長久手町を含む会場について環境アセスメントが再実施されなければならないことは当然でした。しかし青少年公園の開発についての正規の環境アセスメントの実施はまったく日程に登っておりません。これは青少年公園についてあらためて環境アセスメントをすることになれば、2005年に間に合わなくなるという危惧のためです。
 第三の問題は、準備書および現在ではすでに評価書の案も公表されているわけですが、いずれも動植物などかなりの影響を避けることができないことが、あちこちで述べられているのですが、それに対する環境影響の回避措置が具体性を欠いていることです。たとえば単に「適切な配慮をする」とか、あるいはまた実効性を確認できていない代償措置(たとえば植物の移植による保全など)によるとか、事後調査を継続するなどの記述によって、環境影響の回避や低減がなされるとしている箇所がかなりあります。実効性の確認されていない代償措置によって環境影響を回避できるとすることが、本来の環境アセスメントからは、はずれたやり方であることは、私たちの地元名古屋の藤前干潟の埋め立てに関して経験済みなのですが、愛知県や万博協会はこの教訓を真摯に受け止めているとは言えません。
 こうしたなかで、2000年4月、日本政府と愛知県、それに博覧会協会は、従来進めてきた万博会場計画を大幅に見直し、その跡地利用として予定されていた海上の森での2000戸6000人のニュータウン計画と、海上の森を縦断する道路建設計画を中止することを決めました。
 そして、2000年5月28日、市民参加による合意形成を図るための、自然保護団体や住民運動の代表者と有識者から構成される「愛知万博検討会議」が、博覧会協会の中に設置されました。この会議はこれまでにすでに4回の会合を重ねています。
 愛知万博は、この「検討会議」の議論の方向もふくめて、どのような展開を見せるのか、なお不透明な部分はありますが、大型公共事業計画に、住民が直接参加できる仕組みが作られたことは、日本のこれまでの公共事業の経過から見て、大きな転機になるものと思われます。
 以上のように、愛知万博の環境アセスメントは、新しい環境の時代のアセスメントのモデルといえるようなかたちですすんでいるとは、とてもいえません。私たちは、これまで実施計画書および準備書の、市民に手続的に意見表明の機会を保障された場で積極的に意見を述べるのはもちろん、それ以外の場でも、節目ごとに、そのときどきの状況を研究して、意見をまとめ、それを事業者に伝え、あるいは世論に訴えてきました。
 このようにして形成されてきた万博をめぐる世論はまた、リオ・サミット以来急速に拡がってきた世界的な世論でもあります。
 私たちは、ここまで万博の会場計画が大きく変更され、新たな地域が会場に加えられたのである以上、環境アセスメントの手続をはじめからやり直し、住民がそのなかに参加して十分な議論がなされることを、手続的に保障するべきだと考えています。そのような手続的な保障こそ、環境アセスメントの最も重要な要素と考えるからです。環境アセスメントの手続を尽くさないまま、BIEへの正式登録を進めるのでは、テーマに「自然の叡知」をうたった愛知万博の理念そのものに反することになるでしょう。


 以上の私の意見に対し、この会場にご出席の皆さんのご理解、ご賛同がいただけるならば、是非その旨のご意見を、博覧会協会(mail-address: voicebox@expo2005.or.jp)に宛ててご意見をお寄せ下さい(英語で結構です)。またそのご意見を私たちのアドレス、kaycivil@alato.ne.jp にもお送りくだされば幸いです。

                        (うさみ だいじ)


購読会員:年間5000円。
     郵便振替:00800-8-69490 日本環境法律家連盟(※購読会員専用)
     →購読申込書 


[トップページに戻る]

 『環境と正義』をご購読ください。