2021年03月30日

2021年3月30日 防衛省「馬毛島、基地建設に関するアセス方法書への意見書」を提出しました。

 2021年3月30日、JELFは防衛省による「馬毛島基地(仮称)建設事業に係る環境影響評価方法書に対する意見書」を、熊本防衛支局に提出しました。
 以下、JELFが提出した意見を掲載します。

 馬毛島の基地建設に関するアセス手続きについては、以下のリンクをご参照下さい。
 https://www.mod.go.jp/rdb/kyushu/kensetsu/kumamoto/oshirase/mage/030219_1_osirase.pdf

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2021 年(令和 3 年)3 月 30 日

熊本市東区 1−1−11
熊本防衛支局 建設計画官付
防衛大臣 岸 信夫 殿

一般社団法人 JELF(日本環境法律家連盟)
名古屋市中村区椿町 15-19
学校法人秋田学園名駅ビル 2 階
理事長 弁護士 池田直樹

馬毛島基地(仮称)建設事業に係る環境影響評価方法書に対する意見書

 

 当団体は、環境保全等の活動を行っている法律家約450名による全国組織であるが、2021年(令和3年)2月18日付けで防衛省(熊本防衛支局)から公表された「馬毛島基地(仮称)建設事業に係る環境影響評価方法書」について、環境保全の見地からの意見を次のとおり提出する。

(序)本件方法書の提出は時期尚早である
 馬毛島は、一部に未買収の民有地だけでなく、小中学校跡地の市有地が残っている。未だ十数パーセントが未買収であり、全島が国有地化している訳ではない。しかも、葉山港から小中学校跡地を通り、岳の腰に続く道路は、西之表市の市道である。本件方法書は、いわば他人の土地について、その所有権を無視して、勝手に事業計画を作り上げて環境影響評価手続きという実質的な事業着手を宣言するものであり、違法な所有権侵害行為とも評価され得るものである。
 さらに島の中心部に位置する小中学校跡地を所有している西之表市は、平成29年12月に「馬毛島活用に係る報告書」を公表し、その中で「馬毛島活用について」と題する一項目を設け、「検討結果:馬毛島自然保護区及び自然・文化総合学術調査施設の設置」など、基地計画とは正反対の活用方針を打ち出している。
 そして報告書をまとめた西之表市の八板市長は、基地反対をスローガンに掲げて、基地推進派の候補に勝利した。
 しかるに、本件方法書は、市有地を管理する西之表市や市民の過半数に及ぶ基地に反対する世論を、問答無用に無視する、防衛省の横暴であり、地方自治や民主主義と全く相容れないものと言わざるを得ない。
 よって、本意見書は、方法書の撤回と、振り出しに戻って馬毛島の活用を西之表市民と共に再検討するべきであることを、個別の意見に先立って、意見を表明する。

1 事業計画について
 工事計画や施設設計などの事業計画の詳細が明らかになっていないことから、これらを可能な限り確定させたうえで、適切に環境影響評価を行うこと。
 ここで重要な問題を指摘しておく。
 本件基地計画は、米軍がFCLP基地として使用することを含んでいるが、地位協定では、米軍は、日本国内のどこにでも基地や訓練区域の提供を申し出ることができ、日本政府は事実上これに応じなければならない関係になっている。そして基地は治外法権とされているため、騒音規制もままならず(欧州は違う)、しかも基地から基地への移動(例えば、嘉手納から横田へのヘリ輸送)も事実上の訓練区域としてしまい、低空飛行などを繰り返し、市街地に墜落したりして問題になっている現実がある。主要な地域の航空管制権も握られているため、民間機の飛行にも影響を及ぼす。しかるに本件方法書は、こうした重要な問題について全く言及しておらず、この点において、重大な欠陥を有していると言わざるを得ない。

2 環境影響評価対象事業について
 防衛省・自衛隊が昨年8月に公表した「馬毛島における施設整備」と題する資料9頁の「馬毛島における施設イメージ」において、仮設桟橋、係留施設等、揚陸施設、及び外周道路が明記されている。
 しかし、上記各施設は、方法書において対象事業に掲げられていない。
 外周道路は、馬毛島基地の維持管理等に供されることが想定される道路で、基地計画と一体となって設置される施設であり、馬毛島基地整備と無関係に国有地の管理などとして設置されるものではない。
 加えて、上記各施設の建設は、漁業に対する影響やオカヤドカリ等の潮間帯の生息に及ぼす重大な影響が懸念され、このような観点からも評価対象に加える必要性もある。
 また、方法書12頁によれば、「飛行場の運用を支援するための施設」として、体育館、プール、運動場などといった飛行場の運用を支援するのには全く不要な施設までが、対象事業に係る施設として列挙されているが、飛行場の運用とは全く関係ない施設までが方法書に挙げられているにもかかわらず、外周道路のような基地の維持管理に必要な施設を、馬毛島基地の整備事業とは「目的が異なる」などとして環境影響評価の対象から殊更に外すのは、法の順守が求められる国の態度として不適切である。
 環境影響評価法の施行以来、違法または不当ないわゆる「アセス逃れ」が横行し、問題となってきたが、国が、アセス逃れの悪しき前例を作ることは容認しがたく、外周道路等の上記核施設も環境影響評価の対象とすべきである。

3 騒音・低周波・振動
 施設整備案で「陸海空自衛隊の訓練」に例示された訓練は、ステルス戦闘機F35B や輸送機オスプレイなど米軍と共通機種の航空機なども対象とされ、将来は米軍、自衛隊双方の訓練が集中する可能性があり、騒音被害が予想される。供用時の騒音・振動について環境影響評価項目に選定し、調査、予測・評価を実施すること。とりわけ、FCLPがもたらす爆音や低周波、振動については、硫黄島の訓練基地における実態調査に基づくデータを基礎に、馬毛島基地計画の環境影響評価を行うこと。
 馬毛島内に棲息する陸域動物には、FCLPがもたらす爆音や振動が直撃するし、海域動物も、音や低周波、振動に影響を受けるから、爆音や低周波、振動が陸域及び海域の棲息や生態系、漁業に与える影響についても精査されなければならない。
 佐賀県の発行した「佐賀空港の自衛隊使用要請に関する論点整理」と題する資料には、海中騒音と漁業被害について検討されていることにも照らすと、FCLPによる爆音や振動が、陸域生物及び海域生物の生息に対し与える影響について調査されるべきである。

4 生物
 馬毛島には、大型哺乳類の固有亜種マゲシカ(鹿児島県絶滅危惧 II 類)、メダカ(環境省絶滅危惧 II 類、鹿児島県絶滅危惧 I 類)やドジョウなどの淡水魚、オカヤドカリ(国指定天然記念物)、繁殖地として利用しているエリグロアジサシ(環境省準絶滅危惧種、鹿児島県絶滅危惧 II 類)など多くの野鳥、固有種ナガバアリノトウグサ(学名:Haloragis walkeri、環境省絶滅危惧 IB類)をはじめ 431 種の野生植物、北限のサンゴ礁やアカウミガメ(国際希少野生動植物種、環境省絶滅危惧 IB 類、鹿児島県絶滅危惧 II 類、ワシントン条約附属書 I)、数多くの魚種などの生息が確認されており、環境省により生物多様性の観点から重要度の高い海域として選定されていることも踏まえ、これらの生息の有無や産卵場の位置等を確認できるよう、調査時期及び調査日数を適切に設定すること。
 方法書によれば、「当該飛行場は一般的な運航が行われるため、標準的な手法を選定します。」とあるが、馬毛島においては自衛隊の訓練に加え、米軍によるFCLPの訓練が任意の2か月間、午前11時から翌午前3時まで実施されると説明されており、自衛隊と米軍の訓練期間を合わせれば、少なくとも年間150日以上、訓練が行われることが明らかになっているのであるから、「一般的な運航」が行われるといった説明は妥当しない。
 また、馬毛島の生物は、その地理的条件のため馬毛島の環境にその生存を依存しており、本件基地の整備及び同基地が供用されること等から生ずる被害から逃れることはできないから、馬毛島の基地整備等により、同島内における一定の種類の動物については絶滅が危惧される。
 特に、馬毛島にしか生息しないマゲシカ(Cervus nippon mageshimae)の生息については、820ヘクタールという馬毛島の面積自体が、大型哺乳類の生息地としては極めて小さく、常に個体群の存続は危機的といっても過言ではなく、環境省のレッドリストに「絶滅のおそれのある地域個体群」として登録されているのもそのためである。
 このマゲシカ個体群は、南西日本に生息するニホンジカ同様、カシ類の堅果に依存する傾向が強く、照葉樹林面積や生産力が生存に大きな影響している。中部以北のササ型林床落葉樹林帯のシカ個体群とは異なり、照葉樹林帯のシカは、四肢が短く、オスの角が小さいことなど栄養条件の良くない地域に適応した形態が見られる。特に馬毛島のような820ヘクタールの小島では堅果類を生産するカシ類の存在は重要である。しかしながら馬毛島は本年2月10日の福岡高裁宮崎支部判決が認定したように違法な開発事業によって島の半分の森林が喪失し基地建設が現実化している状態になっている。したがって基地計画以前にマゲシカの保全の措置が必要な現状にある。
 そうした現状にも関わらず、基地稼働後には、米軍による FCLPが予定されている。戦闘機によるタッチアンドゴーは、日常生活では体験したことのない想像を超える爆音、低周波と振動が繰り返し生じるにも関わらず、方法書では、その事象に殆ど全く触れておらず、重大な欠陥を抱えている。
 また天然記念物のオカヤドカリは陸域と水域を往復して生息する生物であるから、外周道路がオカヤドカリの生息に及ぼす影響も決定的である。
 想定される基地の運用、馬毛島の地理的条件等を踏まえれば、「標準的な手法」による調査では環境影響を評価することはできない。
 生物の生息状況、昼夜の行動範囲、季節ごとの生息範囲、繁殖期における行動パターン等を精査して環境負荷の低減等を検討するには、種ごとに終日かつ通年の大規模な調査が実施されるべきである。
 また、魚類及び底生生物の現地調査について、生息状況を適切に把握するため、減水区間内に調査地点を追加するとともに、渇水期調査を追加して実施すること。
 供用後における予測時期は、減水区間の河川流量が最も少なくなる時期及び最も少なくなった場合での魚類、底生生物及び河川生態系への影響(産卵場所への影響、水質や河床構成材料の変化を含む)について予測・評価を行うこと。

5 漁業
 馬毛島は、古くから「宝の島」と賞されるほど、水産資源の宝庫である。
 島内の森林の伐採や伐根による表土の海への流出が海洋を汚染して漁業資源に悪影響を与えるおそれがあり、その結果ナガラメ(トコブシ)、キビナゴ、ミズイカなどの漁業への多大な打撃が懸念されるため、十分な予測・評価を行うこと。
 外周道路建設は、表土を剥ぐため、赤土が海洋に流出して、海洋汚染を引き起こすことが必至である。その問題について、全く触れていないことは、方法書の重大な欠陥である。
 また、基地の施設の一部となる馬毛島東側を中心に計画されている「揚陸施設」「仮設桟橋」「係留施設」などの港湾建設事業について、方法書は全く触れていないが、港湾建設が漁業に及ぼす影響は、甚大なものになると予測されるので、このことを方法書で取り上げないのは、重大な欠陥である。
 したがって、上記外周道路建設と、港湾建設は、環境影響評価の対象事業に加えるべきである。

6 自然景観
 森林などの自然、豊かな漁場の大部分が失われる。シンボルの岳之腰(標高71m)は切り崩される計画とのことであるが、何千年も維持されてきた自然景観であるだけでなく、山頂部にはトーチカの遺跡があり戦争遺産でもある。したがって、重要な自然的歴史的遺産である岳の腰が破壊されないような代替案を検討するべきである。

7 人と自然とのふれあいの活動の場
 馬毛島の潮間帯を人と自然の触れ合いの場として調査さすること。
 馬毛島は、潮間帯の生物の多様性に富んでおり貝類の多様性が高いことから生物多様性の観点から重要度の高い海域に指定されている。
 そのため、毎年春先から夏場にかけて大潮の日をはじめとして潮位の低い日には、種子島の島民が馬毛島に渡り貝の採取が行われている。
 馬毛島における貝の採取は、多くの島民にとって年中行事として組み込まれており、馬毛島の潮間帯を調査対象に加えるべきである。

8 環境全般
 環境影響調査にあたっては、地域の文献により詳細に調査を行うとともに、現地調査項目の設定は事前に地元自治体や住民、地元専門家などからヒアリング調査を行い、現地調査を実施すること。
 また、準備書作成段階における影響評価の過程において、地元自治体と協議する機会を設けるなど、自然及び生活環境への影響の回避又は低減に向けて地域と連携して取り組むこと。

 

 以 上