2021年07月21日

2021年7月15日、JELFは「奄美大島,徳之島,沖縄島北部及び西表島」の世界自然遺産候補地調査に関する要望書をIUCNに提出しました。

 2021年7月15日、一般社団法人JELF(日本環境法律家連盟)は、ユネスコの諮問機関であるIUCNに対し、奄美大島・嘉徳浜が世界自然遺産の評価書明示されたことについて、要望書を提出しました。

 以下、JELFが提出した声明の日本語版を掲載します。
 送付された英語版日本語版は、このページ上、PDFファイルで掲載しています。
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2021 年 7 月 13 日

Dr. Bruno Oberle
Director General, IUCN

Mr. Tim Badman
Director, World Heritage Programme, IUCN

Dr. Elena Osipova
Senior Monitoring Officer, IUCN World Heritage Outlook, IUCN

Dr. Ulrika Åberg
World Heritage Monitoring Officer/ Field Evaluator, IUCN

Dr. Wendy Strahm
Field Evaluator, IUCN

「奄美大島,徳之島,沖縄島北部及び西表島」の世界自然遺産候補地調査に関する要望書

 私たちは JELF といい,日本全国の弁護士約 450 名で構成される環境保護団体です。弁護士で構成される環境保護団体としては我が国最大規模のものです。現在,日本の環境保護団体,生態系に関する学会とともに鹿児島県瀬戸内町嘉徳浜を巨大人口構造物から守る訴訟を展開しています。私たちは IUCN に対して,次の要望書を提出します。

JELF(Japan Environmental Lawyers for Future)
所在:〒453-0015 
愛知県名古屋市中村区椿町 15 番 19 号
学校法人秋田学園名駅ビル 2 階(本部)
Tel:052-459-1753
Mail:jelf@green-justice.com
代表:弁護士 池 田 直 樹
(担当) 弁護士 西 岡 治 紀

 

 現在鹿児島県奄美大島瀬戸内町嘉徳海岸において鹿児島県は護岸工事を進めようとしている。この工事に反対し,嘉徳の自然と文化を守るために嘉徳在住の住民及びその支援者の依頼を受けて JELF 所属の弁護士が訴訟を進めている。「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の自然遺産登録が決められる次回世界遺産拡大委員会に当たって,嘉徳海岸保護を勧告するよう求めるものである。

 IUCN 世界遺産評価書 2020 年,2021(IUCN World Heritage Evaluations 2020 and 2021) がユネスコに提出された。本評価書は「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」に対して世界自然遺産の登録を推薦するものである。奄美大島の自然と文化の保全を求めてきた JELF はこれを心から歓迎するものである。

 自然遺産に登録された場合,締結国は自然遺産に対して,「自国の有するすべての能力を用いて」保護,保存に「最善をつくす」義務が課せられることになる(条約 4 条)。自然遺産の完全性(integrity)を保証するためにバッファーゾーンを定め,特別な保護政策が求められることになる。

 嘉徳海岸は嘉徳川河口部に広がる小さなポケットビーチであるが,奄美大島でも数少ないコンクリート構造物のない海岸である1。嘉徳川河口部に広がる豊かな砂浜が高い防災能力を持ち,背後地を守ってきた。嘉徳海岸には琉球列島固有種であるリュウキュウアユが生息し,産卵のためにこのポケットビーチから嘉徳川を遡上している。海岸には毎年ウミガメの産卵が見られ,過去オサガメが産卵したこともある。日本ではオサガメの産卵はこの地が唯一記録された場所である。嘉徳浜から嘉徳川にかけては多様な生物相にめぐまれた区域である。

 また,嘉徳川上流部は自然遺産登録推薦区域である。急峻な山より下る川は古来より人々の恵となり,河口域に存在する嘉徳集落(コミュニティ)にとって無くてはならない存在であった。背後の森,嘉徳川,嘉徳海岸,嘉徳集落は一体となって奄美大島固有の文化を形成してきた。現在,嘉徳海岸や嘉徳川の自然に惹かれ,若い世代が居住するようにもなっている。

 奄美大島が自然遺産登録されるにあたって,日本政府は嘉徳川及び嘉徳海岸の価値を認めバッファーゾーンに指定した。嘉徳の高い自然的文化的価値を考慮するとこれは歓迎するべきことである。ところが,日本の地方政府である鹿児島県はこの嘉徳海岸にコンクリート護岸を建設しようとしている。自然遺産の完全性を保護する趣旨からすれば,バッファーゾーンにあってもコンクリート構造物は避けるべきである。

 このポケットビーチの豊かな砂の量からすれば,自然の砂浜は高い防災能力を持っている。コンクリート構造物により砂の自然な流動を妨げることは砂の生態系を破壊し,砂浜に脆弱な部分をかえってもたらすことになり背後地にとって危険ですらある。私たちは世界の英智を結集すれば,自然状態を生かしつつ防災を実現することは可能であるし,日本政府にはその能力がある。

 評価書によれば,日本政府は護岸が嘉徳川に対し影響を与えない距離であるとしている2。しかし,これは事実と異なる。嘉徳海岸は嘉徳川河口に広がる小さなポケットビーチであるから,嘉徳海岸は嘉徳川そのものである。嘉徳川の水は季節によって嘉徳海岸を横断して海岸北部にも達し,嘉徳海岸の砂の流動性に深く関わっている。日本政府が嘉徳川及び嘉徳海岸をバッファーゾーンとして保護するというのであれば,嘉徳川と嘉徳海岸が切り離せないという事実を直視するべきである。

 奄美大島の豊かな自然は世界の遺産として次世代に残すだけの価値を持つ。自然の価値は一つ一つの破壊を許すことによって失われてきたというのは過去,現在の人類が経験してきたことがらである。バッファーゾーンは自然の価値を再吟味し,その価値を残すための新たなチャレンジを試みる区域である。ところが,日本政府はそのチャレンジを怠り,嘉徳川から離れているという言葉でこのチャレンジから逃げようとしている。

 日本政府が護岸建設を中止すること,自然海岸である嘉徳海岸を守るあらたなチャレンジをするようこと,世界遺産委員会が日本政府や鹿児島県に勧告することを求める。

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1  ‘The State Party also confirmed that Katoku River, the last free-flowing river within the Amami-Oshima Island component part, will not be subject to any new constructions of river structures in the future.’p28
2  ‘The State Party noted that the seawall would be distant enough to avoid negative impacts on the river.’(p28