2022年06月01日

2022年6月1日 防衛省「馬毛島、基地建設に関するアセス準備書への意見書」を提出しました。

 2022年6月1日、JELFは防衛省による「馬毛島基地(仮称)建設事業に係る環境影響評価方法書に対する意見書」を、熊本防衛支局に提出しました。
 以下、JELFが提出した意見を掲載します。

 馬毛島の基地建設に関するアセス準備書は、以下のリンクをご参照下さい。
 https://www.mod.go.jp/rdb/kyushu/kensetsu/kumamoto/oshirase/mage/mage_index.htm?fbclid=IwAR0-p6MbesUu8vRYntGpHqyPs6R3P_lZ0hyTQ8B6Olsq977pWAjEePLtyS4

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2022年(令和4年)6月1日
熊本市東区1−1−11
熊本防衛支局 建設計画官付
防衛大臣 岸 信夫 殿

一般社団法人JELF(日本環境法律家連盟)
名古屋市中村区椿町 15-19
学校法人秋田学園名駅ビル2 階
理事長 弁護士 池田直樹

 

馬毛島基地(仮称)建設事業に係る環境影響評価準備書に対する意見書

 当団体は、環境保全等の活動を行っている法律家422名による全国組織であるが2022年(令和4年)4月19日付けで防衛省(熊本防衛支局)から公表された「馬毛島基地(仮称)建設事業に係る環境影響評価準備書」について、環境保全の見地からの意見を、次のとおり提出する。

1.本アセスは時期尚早である

 馬毛島は、一部に未買収の民有地だけでなく、小中学校跡地の市有地が残っており、未だ全島が国有地化している訳ではない。葉山港から小中学校跡地を通り、岳の腰に続く道路も、西之表市の市道である。しかも、島の中心部にある小中学校跡地を所有している西之表市は、平成29年12月に「馬毛島活用に係る報告書」を公表し、その中で「馬毛島活用について」と題する一項目を設け、「馬毛島自然保護区及び自然・文化総合学術調査施設の設置」など、基地計画とは正反対の活用方針を打ち出している。そして報告書をまとめた西之表市の八板市長は、基地反対をスローガンに掲げて、基地推進派の候補を破って市長選に勝利した。
 しかるに、本アセス手続きは、市有地を管理する西之表市や市民の過半数に及ぶ基地に反対する世論を、問答無用で無視する、防衛省の横暴であり、地方自治や民主主義と全く相容れないものと言わざるを得ない。
 ついては、西之表市長や市議会の同意を欠き、加えて計画地域内に市有地や民有地を残したままで、本アセス手続きを進める理由だけでなく、上記市有地及び民有地を国有地化する見通しについても何ら明らかになっておらず他人の土地を何らの同意も無く開発する前提のアセスメントの実施は時期尚早である。

2.騒音問題について

 馬毛島基地計画の発端となったのは、現在硫黄島で実施しているFCLPの移設問題である。そして、かつての訓練場所であった横田基地では、周辺の住民に重大な騒音被害を引き起こして、硫黄島に移設することを余儀なくされたことも周知の事実である。

(1) これに対し、準備書は、「航空自衛隊馬毛島基地(仮称)に常駐する部隊は自衛隊です。方法書に記載したとおり、現在の計画において、米軍は、空母 艦載機着陸訓練(FCLP)を実施する際、一時的にこの基地を使用するのみであり、FCLP以外の米軍の訓練について、日米共同訓練も含め、具体的な計画はありません。」と述べて、FCLPの騒音問題に正面から答えようとしていない。
 また、「一時的」という表現は抽象的であり、具体的に、何時間、どの範囲に、どの程度の騒音被害をもたらすのか、その対策はどうなっているか、硫黄島での実証データを基礎にした具体的な検討ができるはずであるのにこれを怠っている。

(2) さらにまた、馬毛島周辺は、種子島の漁業者の主要な漁場であるため、日常的に操業が行われる。したがって、離発着訓練を実施した場合、操業中の漁業者の真上を超低空で戦闘機が飛行することが確実に予想される。その場合、爆音に曝される漁業者への健康上の影響とその対策はどうなっているのか、この点についても具体的な検討ができるはずであるのにこれを怠っている。

(3) なお、準備書は、「硫黄島における米軍の空母艦載機着陸訓練(FCLP)の航空機の騒音テータは保有していません。」と回答しているが、日本よりは環境先進国である米軍が環境データを保有していないはずがない(少なくとも横田基地や厚木基地での騒音データはある筈である)。日米地位協定が障害となっているのかどうか不明であるが、防衛省は米軍に働きかけて、開示を求めるべきである。

(4) 騒音の問題は種子島の住民の生活に深刻な被害を発生させることが予想されるにもかかわらず、FCLPの騒音データを得ることも無く騒音に関する予測をできるはずが無く、杜撰な検討をするにとどまるものである。

3.漁業被害について

(1) 準備書は、「海域生物への影響については、環境影響評価手続において、適切に調査、予測及び評価を行った上で所要の環境保全措置を講ずることとしており、準備書においてお示ししました。」と回答するが、トビウオ、キビナゴ、アサヒガニ、ミズイカ(アオリイカ)、イセエビといった主要魚種についての記述が見あたらない。馬毛島沿岸の漁業の中で最重要とも言えるトコブシについても、「生物的基盤であるホンダワラ藻場分布域(被度 5%以上) の0%が消失し、93.0%が残存します」と予測するだけで、それがトコブシについてどのように影響を及ぼすのか、調査・予測・評価はなされていない。しかも、後述するように、沿岸漁業に対し、より直接的な影響をもたらす外周道路建設が漁業にもたらす影響には、目をつむったままである。
 したがって、「漁業にもたらす被害が適切に調査・予測・評価されている」などとは到底言えない。

(2) 港湾建設がもたらす沿岸漁業への影響について、準備書は「港湾施設整備に当たっては、漁業への影響に配慮して海上工事を行いますが、港湾施設整備に伴い、漁業経営上被る損失については、適切に補償を行う考えです。」と回答しているが、港湾建設に先立つ海上ボーリング調査において、漁業者が長期間にわたって調査海域において操業を制限されたことに対する漁業補償は現実的にまったくなされていないだけでなく補償に向けた姿勢も皆無である。その理由は明らかでなく、「適切な補償」の具体的な内容についても明らかにされるべきである。

(3) なお、馬毛島沿岸は、防衛省の前所有者が、森林法に違反する違法開発によって沿岸を汚染した結果を、160億円という大金をはたいて、購入したものであるが、この問題について、準備書は、「事業者による開発行為等に対する森林法違反の有無は、処分権者である県又は市が、事実確認の上で認定するものです。その上で、 防衛省において把握している限りでは、これまで、森林法に違反していることを理由として何らかの処分が行われたとは承知していません。」と開き直っている。しかし、以上の違法開発は、行政機関である公害等調整員会において認定されたものであるし、福岡高等裁判所宮崎支部においても認定されており、判決として確定しているのであるから、これを無視することは違法行為を無視してアセスメントを実施したと述べていることに他ならない。およそ、不動産の購入者たる防衛省は、その不動産の来歴と売主について、当然に詳細な調査を実施しているはずであり、公調委や裁判所が森林法違反の事実とそこから汚濁水が沿岸に流出した事実を認定したことを把握しており、したがって、それらの「不都合な真実」も当然に認識している。自治体が処分したかどうかによって真実が消えたりするものではない。防衛省の回答は「目をつむれば世界は消える」と言っていることと等しく、少なくとも、馬毛島周辺で操業する漁業者を騙すことは出来ないことを指摘しておく。

4.野生生物への影響について

(1) マゲシカ等の生息が、生息地の減少と戦闘機の爆音によって、どのような影響を受けるのか、準備書において、科学的な評価がなされているとは言いがたい。硫黄島でのFCLPが野生生物に与えた影響を明らかにして、具体的な予測と対策の効果の具体的内容が明らかにされるべきである。

(2) なお、準備書は、「シカの施設内への侵入を防ぐ外柵を滑走路や施設周囲に限定して設置することにより、現在計画している供用時の改変区域を馬毛島面積の約8%に縮小し、シカの生息・生育範囲として馬毛島面積の約49.2%を確保しました。」としているが、生息に適した森林や草地がどの程度確保されていて、コリドーなどで生息地相互に行き来が可能なようになっているのか、その結果、マゲシカの生息への影響は具体的どのように予測しているのか、と言う点についての考察が全く欠けている。

(3) さらには、戦闘機爆音がもたらす、マゲシカへの身体的影響には全く触れていないが、きわめて不適切である。

5.外周道路について

 準備書は、外周道路は、基地計画とは無関係だから環境影響評価の対象とならないと言うが、外周道路が基地計画と無関係ならば、外周道路が基地内を通る箇所があるはずである。外周道路が基地計画と一体化された計画であるからこそ、基地範囲と重ならず、見事にその外周をなぞるように計画されているのである。防衛省の回答は稚拙なごまかし以外の何物でもない。実際に、過去の民間会社による海岸部の開発が、甚大な海洋汚染を引き起こした事実から、本件外周道路による海洋汚染のリスクは無視できないのであり、この点の環境影響評価は必至である。防衛省の誠意ある回答を求める。
 なお、外周道路の建設が馬毛島基地(仮称)建設事業とは別の事業であるとの防衛省の主張が確定するのは、少なくとも本アセス手続きが完了する時点である。したがって、本アセス手続き完了以前に外周道路の建設に着手することは許されないと言うべきである。

6.自然景観

 馬毛島のシンボルであり、貴重な戦争遺跡でもある岳之腰(標高71m)の保全方法については具体的に明らかにされるべきである。

7.地位協定について

 最後に、米軍に対する日本の法的コントロールを事実上放棄しているに等しい日米地位協定について、準備書は「日米同盟は日本外交・安全保障の基軸であり、インド太平洋地域の平和と繁栄の礎でもあります。地域の安全保障環境が厳しさを増す中、抑止力・対処力の強化を含め、日米同盟を一層強化するため、幅広い分野において日米間で緊密に連携し、取組を推進しております。その上で、日米地位協定について様々な御意見があることは承知していますが、日米地位協定は、大きな法的枠組みであり、政府としては、事案に応じて、効果的かつ機敏に対応できる最も適切な取組を通じ、一つ一つの具体的な問題に対応してきています。」と回答しているが、要は、地位協定は日本の安全保障にとって必要だから、主権放棄はやむを得ないと述べているに等しく、日本の外交政策の怠慢と卑屈さをさらけ出したような回答と受けとめざるを得ない。このような回答を出して寄越す防衛省に、果たして真に日本の国土と国民を守る気概があるのかどうか、不安この上ない。

 再度真摯にご検討の上、誠意ある検討を求める次第である。

以 上