水(川・海)

2025年5月26日、奄美大島・嘉徳浜「自然の権利」訴訟 弁護団は、上告審判決に関する弁護団声明を出しました。 

 鹿児島県奄美大島、嘉徳浜「自然の権利」訴訟は、2025年5月23日、最高裁が原告側の上告を受理しない決定をし、原告側の主張を退けた一審、二審の判決が確定しました。
 この上告審判決を受けて、弁護団が弁護団声明を発表しましたので、掲載します。

 

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上告審判決を受けた声明文

2025年5月26日
嘉徳浜住民訴訟弁護団
団長 弁護士 籠橋 隆明

 本件は2014年台風により嘉徳海岸の砂丘に大きな浜崖ができあがったことから、新たな海岸保全政策として鹿児島県により護岸建設が計画され実行に着手されたことの差し止めを求める事件である。私たち弁護団は、嘉徳海岸の浜崖が広大な嘉徳海岸の砂の変動の範囲の問題であること、護岸によって砂の自由な変動を妨げることはかえって嘉徳集落への災害が増大する危険があること、美しい嘉徳海岸に巨大な人工物を作ることは嘉徳海岸の生態系に有害な影響を与えるものであることを訴えて、公金の支出を差し止めるべくこの住民訴訟に取り組んできた。嘉徳海岸自体は、2014年から10年以上が経過した現在も侵食の進行は無く、砂丘についても砂の堆積を続けている状況にある。

 私たちは嘉徳集落の安全はもとより重要であると考えている。しかしながら、今回のコンクリート護岸計画は嘉徳集落の安全性にとって有害な存在であることが専門家からも指摘され、裁判の中でも明らかにしてきた。むしろ、嘉徳の砂浜の防災能力を最大限活かし、一方で災害時の避難対応など海岸政策と背後の集落との一体となった統一的な災害対策が必要であると考えている。

 私たちが裁判を取り組む中、嘉徳海岸の自然状態に対してはその価値がユネスコによっても認められ、嘉徳海岸は世界自然遺産のバッファーゾーンとして人と自然が調和した海岸政策が求められるようになった。私たちが主張する自然海岸の特性を活かした防災対策は世界遺産条約の精神にも則ったものであり、砂浜の総合的な機能を重視した新しい海岸法の趣旨にもかなうものである。

 先日、上告人である住民らの主張を全面的に退ける上告を受理しないという敗訴判決が出た。この判決は行政裁量を著しく広く認め、およそ行政の判断は正しいものとして扱えとも言わんばかりの内容であった控訴審の判決を維持するものである。これは、直接民主制の精神から住民による地方財政の統制を認めた地方自治法の考えを全く踏みにじるもので私たちとしては到底容認できない。

 本件護岸は「侵食対策事業」として予算が支出されるのである。上告人の主張は侵食がないのに侵食対策事業はあり得ないのではないかという単純な問いであった。しかし、控訴審判決にはこの問いに対して全く回答がなかった。その判決が維持されたのである。

 さらに、侵食対策事業にあっては、侵食対策による効果があって初めて許されるものである。公共工事の効果を客観的に明らかにし、無駄な公共工事をなくすために我が国では長年にわたって研究が積み重ねられ、政府においても公共投資に関する法律を定め、国交省も必要な指針を積み上げてきた。今回の判決は無駄な公共工事をなくすための我が国における長い政策的な努力を全く無視するものである。

 私どもはこのような上告審判決を容認できず、原告団とも協力の上、今後も住民訴訟とは別の形で活動を維持する意向である。本件事件は裁判外においても多くの支持を得て、さらにユネスコにおいて世界自然遺産バッファーゾーンに指定されるという成果を勝ち取ってきた。今後、原告団は訴訟によって得られた成果を土台に、さらに裁判外においても嘉徳の価値を訴え、嘉徳海岸に本当に必要な政策はなんであるか、優れた自然を守り、人の生活を守る政策を訴えていく所存である。

以上