日本環境法律家連盟2004年度活動方針・活動報告

 [トップページに戻る]2004.12.20更新

--------------------------------------------------------------------------------

日本環境法律家連盟とは

活動方針・活動報告

 [2000年度] [2001年度][2002年度][2003年度][2004年度] [2005年度] [2006年度] 


--------------------------------------------------------------------------------
 2004年度活動方針    2004年度活動報告  <活動方針の後ろにあります>

1 環境的正義
  日本環境法律家連盟は法律の専門家による環境NGOとして発足した。法によって環境保護運動を進めていくという我が国でもユニークな立場に立つ環境NGOである。そのよって立つ理念は環境的正義である。
  環境問題は個人の尊厳を維持するために不可欠な人の環境が侵害される時に生じる社会問題である。そこでの解決の基準は個人の尊厳を基本にした憲法の理念でなければならない。同世代間あるいは未来世代間との公平、社会の持続性、自然界との共生の思想は全て個人の尊厳とその実現の課題として理解される。法の支配実現を任務とし、その実行力を持つ我々法律実務家は環境保護運動に取り組む必然性を持っているし、環境保護運動の最前線に立つ必然性を持っている。また、法の支配が社会的な少数派のために機能しなければならないことを考えれば私たち弁護士が在野の立場に立って市民運動とともに活動を進めていくことがきわめて重要である。
 今日、アメリカによるイラク侵攻は強国による横暴が今なお地球上に存在することを明らかにした。戦争により人々の生命が失われ、個人の尊厳が傷つけられる過程で生じる都市や自然の破壊は人類が生み出した最悪の環境破壊である。我々の正義は戦争に対しても試されなければならない。

2 連盟の取り扱うテーマ
 日本環境法律家連盟は自然保護問題、開発環境問題、廃棄物問題を重要なテーマとして活動してきた。昨年度からは公害問題、原子力問題をもテーマとすることが決められた。国際環境問題についてはグローバリゼーションが生み出す弊害を直視し、個人の尊厳、社会的公正を求めた国際的運動とともに活動していく。連盟の活動の基本的視点は、個々の事件の解決の積み重ねによって、新しい国際秩序が作られていくというものである。


3. 裁判、行政などの新情勢と課題

 1) 訴訟などの事件
 現在各地で展開されている訴訟その他の事件は次の通り。自然環境の分野では現在公共工事が最も深刻な問題である。その多くが行政訴訟、住民訴訟によって争われている。
  @ 自然保護
   ダム:川辺川訴訟、諫早湾「自然の権利」訴訟、よみがえれ有明訴訟、苫田ダム訴訟、

       永源寺ダム訴訟、徳山ダム訴訟、八場ダム監査請求事件
   道路:やんばる訴訟、高尾山「自然の権利」訴訟、日高縦断道路事件、
   その他:中部国際空港事件、神戸空港事件、馬毛島「自然の権利」訴訟、泡瀬干潟埋め立て事業事件
  A 都市問題
     景観:国立市マンション事件、小田急線高架認可の取消請求訴訟、豊郷町住民訴訟、

                       名古屋環状2号線事件、半鐘山事件など
  B 有害廃棄物問題
     ガス化溶融炉事件、杉並病事件など 

 2) 行政・裁判所をめぐる情勢
  これまで、国立市マンション事件、小田急高架事件、豊郷町事件、もんじゅ事件、ぽんぽん山ゴルフ場事件、川辺川訴訟、沖縄県ヤンバル訴訟など住民側勝訴の判決があいつだ。一方で、小田急高架事件については控訴審で住民側が敗訴し、徳山ダム事件についても住民側が敗訴する判決が出された。
 これら住民側勝訴の動きは決して個別の裁判所の個性が生み出した特殊な事例と見るべきではない。例えばもんじゅ事件に示された原告適格の拡大の流れは都市計画法、森林法に関する新は連にでも示されているように定着した流れになりつつある。しかし、一方で少なからぬ事件で行政追認型判決が続いている。

 現状は打ち破らなければならない壁があるも、変化の兆しが見え、大きな時代の大きな変化の始まりであると言える。この中で、訴訟の進め方、運動、法的理論、立法的課題と多くの全面的な展開が必要な時期になっている。

 3) 行政訴訟全国交流会
 行政事件セミナーを実施し、@原告適格、行政裁量などの法的理論の問題、A主張・立証のあり方、B運動関係など分野を分けて運動の交流を進める。この分野については近時、公害弁連なども力を入れており公害弁連と合同して企画を進める。
 あわせて、行政訴訟などための情報センター機能を充実させる。

 4) 行政訴訟改正問題
 司法制度改革推進本部行政訴訟検討会では平成16年1月6日では「行政訴訟制度の見直しのための考え方」を発表した。同文書では同検討会がこれまで扱ってきたテーマ、原告適格、義務付け訴訟、差止め訴訟、資料開示制度、抗告訴訟の管轄権の拡大、出訴期間の延長、執行停止制度、など様々な議論が展開されてた。この意見を受けて今年度は3月ころから具体的な立法作業に入る見込みである。
 この意見によれば、原告適格については拡大するものとすると言いつつ、現行法の文言を改正するところまでは踏み込んでいない。条文上の文言が変更しないままではこれまでの最高裁判例の流れを変えることは困難である。義務づけ訴訟、差し止め訴訟についても新たな条文化を求めることは前進であるがその具体的内容についてはこれまでの枠組みを大きく変えるものとは言い難い。
 4月には行政事件訴訟法改正案が国会に上程される。JELFは市民のための行政事件訴訟法をめざして活動する。

 5) 団体の原告適格などについて
 特定の分野の法律について特定の団体、個人に訴訟資格を与えることによって法の実効性確保をはかるシステムが求められる。上記司法制度改革推進本部行政訴訟検討会でも議題にあがったが、個別法の改正によるものとして意見の中では取り入れられなかった。環境影響評価法、廃棄物処理法などの分野で市民訴訟条項が入ることは環境問題を前進させるものとして有益であるし、行政にとっても法の実効性をはかることができ合理的である。JELFとしては行政事件訴訟法改正問題と関連されて、導入を図るために活動を進めていく。


4. 公害・有害廃棄物汚染

 1) 公害訴訟
 大気汚染分野では川崎、西淀、尼崎、名古屋南部といくつかの事件が訴訟の勝利をふまえて、まちづくりなど市民の側からの都市設計の課題に取り組んでいる。基地裁判関係については新横田基地訴訟、新嘉手納爆音訴訟、普天爆音訴訟などが提訴され、普天間基地移設に関連しては公害調停を申請されている。これらの問題点は被害を認定しながら差し止めに至らない現状や、米国を被告とした場合の主権免責の課題が存在している。差し止め自体の騒音被害などについて違法性を認定されているが、差し止め、主権免責について課題が残る。米国政府を相手にする場合の課題として沖縄ジュゴン訴訟が検討の素材を提供することになるだろう。

 2) 廃棄物問題
 廃棄物処分場が公共事業化する過程でそれまでと異なった対応が求められるようになっている。公共事業化した処分場についてはさらに監視を強めると共に、過大なゴミ需要予測であるとかいった費用対効果についての議論が進められるべきである。また、既に事業が終了した最終処分場についてはその撤去などが課題である。さらに、廃棄物問題については根本的には生産か流通、消費、廃棄物処理といった一連の過程で市民参加を導入し、循環型社会に向けての新しい政策が進められるべきである。

 3) 有害化学物質汚染
 化学物質の汚染が地球規模で広がり、次世代や自然環境に対し、目に見える深刻な影響を与えつつある。多様で広範囲に及ぶ化学物質については全ての化学物質に対して科学知識があるわけではない。EUでは予防原則に基づいた政策が進められつつある。日本環境法律家連盟としても化学物質対策を進めるNGOと連携して行動する必要がある。


5. 国際環境問題

 1) 経済のグローバリゼーションの進展は多国籍企業による投資の自由を保障するものであることが明らかになっている。自由経済の名のもとの多国籍企業の活動の自由は国際的な貧富の格差を固定し、拡大するものである。環境問題は持続的社会の中で解決されなければならないものであるが、経済のグローバリゼーションは持続的経済を発展させようと言うローカルな努力を阻害するであろうし、途上国による自律した経済を作り上げる努力阻害することになる。ようと言う国際的な視点で見るならば貧困が途上国の環境を悪化させ、地球規模の環境的危機を引き起こしていることを考えれば、現在進行している経済のグローバリゼーションが地球環境に対し悪影響をもたらす危険性を持っていると言える。

 2) 米国によるイラク戦争はこれまで国際社会が築きあげてきた秩序を大きく破壊する行為であった。国家主権が尊重されてこそ、世界の個々の市民の自由や安全が保障されるというのは我々の信念である。戦争は最大の環境破壊であることは明かであるが、それだけでなく、主権すらも侵して平然と自己中心的な国際秩序を作ろうとする大国のあり方が、持続的社会の形成に脅威を与え、人々の環境を悪化させていくであろう。イラク戦争はグローバリゼーションが含む問題と同じ問題を含んでいる。JELFはイラク戦争に反対し、世界のあらゆる国家の主権が尊重されることを求める。

 3) こうしたグローバリゼーションの流れに対し、個人の尊厳を価値観の中心に据えた国際的な市民運動が展開している。世界のあらゆる個人やコミュニティーが持続的な社会で平和で自由に生活できるよう求める運動が進められている。こうした社会は環境問題だけではなく、ジェンダーや貧困、少年問題などあらゆる国際的な人権活動の連携によって実現されるべきである。

 4) 我が国では国際的事件として、コトパンジャンダム事件、沖縄ジュゴン訴訟がある。コトパンジャンダム事件は日本のODAによってインドネシアに建設されたダムによって多くの住民が劣悪な環境下に移住させられた事件でODAの貸し手側である日本国政府を相手に国賠請を提訴している。これは国際援助がそこに住む具体的個人の幸福のために行われるべきであるという原則を示す事件として重要である。また、沖縄県辺野古沖に建設予定の米軍基地に反対して、JELFは米国環境法律事務所、アースジャスティスと共同して行政訴訟を展開している。日米の弁護士が共同して環境を守る活動をする点で新しい展開を含んでいる。

 5) 以上の認識の下にJELFでは国際的事件を支援するとともに、世界各地の法律家と相互に情報・意見を交換して連携をはかっていく。特にアジア・太平洋地域の環境派弁護士と連携をはかっていく。国際的連帯の課題は大阪事務所が担当し、メーリングリストの作成や日本の情勢を世界に伝えるアニュアルレポートを作成する。
 中長期展望にはe-lawの会議を日本で実施したり、日韓共同の行動を進めていくことも検討する。


8. 連盟大阪事務所

1) 大阪事務所のJELF内での位置づけについて
  2004年4月1日よりJELF大阪事務所が発足する。JELF内部では本部と支部との関係と取らず、名古屋事務所と大阪事務所と機能分担するという関係を作り上げる。大阪事務所では半専従スタッフを置き機能を強化する。

2) 大阪事務所の役割について
  大阪事務所では、@事件配転センター、A国際センター、B環境法教育の3分野を受け持って活動を進める。
  事件は移転については当面は大阪と名古屋を中心に協力弁護士を募り、関西、中部の事件を中心に相談活動を行う。将来的には全国的な相談活動を行っていく。
  国際活動についてはアジアを中心として活動する。アジアの環境派のネットワークを作り日本の情報を発信したり、相互交流を図っていく。いずれ、日本でアジアの環境派弁護士の会議を開催する。

3) 大阪事務所の会計
 @ 大阪事務所の財政は原則として全体の中で位置づけて予算化する。基本的には人件費及び活動費ということになる。初年度については、80万円を予算化し、それに加えて大阪事務所のためにカンパを集め、カンパを全額大阪事務所のための費用に充てる。
 A 大阪事務所の予算はスタッフの給料が年間120万円、加えて維持管理費として80万円ほどが必要になる。今後、会員の拡大、会員の口数の拡大を図っていく。


9. 沖縄ジュゴンについて

 別紙の通り。


10. 予算など

1) 決算の特徴
 @ 支出について
  a) 昨年度は経費節減を徹底し、大幅な黒字を実現することができた。
   ・機関誌輸送費のコストの低減
   ・機関誌と各種通信を同封することで送料などの費用を削減した。
   ・「環境と正義」についても必要以上に発行しなかった。
  b) シンポなどについては会計を独立させ、参加費を徴収した。
  c) 修習生対策費について費用配分を見直し、活動を充実させている。
  d) スタッフの活動に伴う費用が使われている。
 A 収入について
  a) グリーンズはE&J法律事務所の事務所後援会で、後援会費の一部がJELFに支払われている。事務委託費用はJELFの事務局が一部法律事務を行うことの費用である。本来の委託費用から言えば高めであるため、事実上E&J法律事務所がJELFの費用を持ち出す結果になっている。このようにJELFについては依然E&J法律事務所への依存が高い。
  b) 寄付金が存在する。寄付金についてはE&J法律事務所の依頼者などが寄付した。

2) 予算の特徴
 @ 収入について
  a) 会員増加を前提としないで予算を組んでいる。従って、増加分を繰り越しとして計上できる。
  b) 寄付金はないものとしてあつかった。
  c) JELFスタッフには一部法律事務を行わせ、E&J法律事務所が委託費を払うものとした。
 A 支出について
  a) 昨年度までの経費節減傾向を維持した。
  b) 大阪事務所開設費用を計上した。但し、大阪事務所の活動費を計上していない。
  c) 修習生対策費を増額させた。


11. 2004年度人事
1) 候補
  理事長  藤原猛爾
  副理事長 菅野庄一 中島嘉尚 村田正人
  理事   池田直樹 籠橋隆明 国宗直子 薦田哲 迫田登紀子 嶋田久夫 
       谷脇和仁 西田隆二 野呂 汎 原田彰好 廣田次男 渡辺正臣 
       市川守弘 佐藤光子 赤津加奈美 岡島実 樽井直樹
  監事   鷲見和人

 

 

 

日本環境法律家連盟(JELF)   2004年度 活動実績

1/10     第5回全国事務局会議
1/12     JELF拡大理事会
1/14     第2回大阪事務所設立会議(2003年11月17日大阪で第1回設立準備会議)
2/21     マルチェロさん、東京・日弁連にて講演・シンポ
2/23     大阪・大阪弁護士会にて講演・シンポ
2/24-2/26 マルチェロさん&ピーターさん、沖縄辺野古・やんばる視察

4/3      JELF大阪事務所設立記念総会・シンポジウム
7/16     第6回全国事務局
7/17-18   環境サマーセミナー開催(茨城県土浦市)
9/6            名古屋大学法科大学院・学習会
12/4          JELF拡大理事会
12/4-5      第4回ダム弁護士交流会


2. 意見書提出・企画協賛など

3/22    新司法試験選択科目に関する意見書提出
5/26  新司法試験選択科目に関するパブリックコメント提出
6/16  普天間飛行場代替施設建設事業に関わる環境影響評価方法書に対する意見書提出
7/29  白山トンネル建設中止を求める団体署名・賛同
8/24  愛知アドボカシーセンター・ロースクール生シンポジウム協賛
9/2   「辺野古座り込みを支援する弁護士の会」呼びかけ
10/9  環境監視研究所・TWATCHの化学物質管理政策・国際シンポジウムに協力・賛同
11/11 「普天間代替施設建設事業に関わる環境影響評価方法書に対する抗議書」提出
12/11 関西学院大学・関根研究室主催「沖縄ヤンバルを考える学習会」協賛

 

3. 大阪事務所 活動実績

 2004.4から環境法法律相談の実施

  電話・FAX・e-mail にて相談申し込みを受けつけています!

3/22〜3/26 4th AAPIEL Conference   ( フィリピン ケソン )

       沖縄ジュゴン訴訟・能勢ダイオキシン訴訟についてプレゼンテーションを行う

4/3        大阪事務所設立総会・記念講演会

            「自然保護と裁判―奄美自然の権利訴訟にかかわって」

             環境ネットワーク奄美代表(アマミノクロウサギ訴訟原告) 薗 博明氏

5/21    JELF大阪 理事会

6/1        第1回法科大学院生のための環境法学習会(東京・上智大学)

             「圏央道あきる野土地収用訴訟」 吉田 健一弁護士 (三多摩法律事務所)

6/21〜6/23  Waste Not Asia Meeting ( 韓国/ソウル ) 参加

7/21      JELF大阪理事会

8/4       沖縄ジュゴン NHPA 訴訟  

          ・サンフランシスコ連邦地裁第1回ヒアリング

          ・オークランド、 Earth Justice  事務所にて米側訴訟代理人と会議

8/27     ODA 勉強会(スリランカ南部高速道路建設問題に関連して)

             講師  ODA 改革ネットワーク 神田 浩史氏

10/13     ODA 勉強会

             講師  ODA 改革ネットワーク   神田 浩史氏

             FoE Japan             清水 規子氏

            コトパンジャンダム訴訟 原告代理人  奥村 秀二氏

11/11   鹿児島大学法科大学院 学生対象「自然の権利勉強会」開催