日本環境法律家連盟2005年度活動方針・活動報告

[トップページに戻る] 2005.11.20更新

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日本環境法律家連盟とは

2005年度活動方針    2005年度活動報告


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1) 環境的正義
 日本環境法律家連盟は法律の専門家による環境NGOとして発足した。法によって環境保護運動を進めていくという我が国でもユニークな立場に立つ環境NGOである。そのよって立つ理念は環境的正義である。
 環境問題は個人の尊厳を維持するために不可欠な人の環境が侵害される時に生じる社会問題である。そこでの解決の基準は個人の尊厳を基本にした憲法の理念でなければならない。同世代間あるいは未来世代間との公平、社会の持続性、自然界との共生の思想は全て個人の尊厳とその実現の課題として理解される。法の支配実現を任務とし、その実行力を持つ我々法律実務家は環境保護運動に取り組む必然性を持っているし、環境保護運動の最前線に立つ必然性を持っている。また、法の支配が社会的な少数派のために機能しなければならないことを考えれば私たち弁護士が在野の立場に立って市民運動とともに活動を進めていくことがきわめて重要である。


 2) 無駄な公共工事による自然破壊があとを立たないが、それを変えようと言う流れが定着しつつある。有明海漁民による「よみがえれ諫早湾訴訟」、八ツ場ダム訴訟は我が国の公共工事の流れを変える決定的な力になりうる可能性を持っている。これらの訴訟に対する全国的な力の結集は必要不可欠である。
 廃棄物問題については循環型社会の流れが徐々に定着する一方で、広域化、公共工事化による廃棄物処理が進みゴミ減量の流れを逆行させている。廃棄物事業者による不法投棄があとを立たず、不法投棄に対する市民監視システムの充実が必要になっている。土壌汚染対策法、特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(PRTR法)、ついての法律家の関わりも志向されなければならない。
 景観法施行にともない、都市景観の保護についても新たな政策が求められようとしている。国立マンション事件は都市景観保護が市民の権利であることを明確に示した意義を持つ判決であり、判決で示された理念が政策に生かされるよう活動を進めるべきである。
 今日、アメリカによるイラク侵攻は強国による横暴が今なお地球上に存在することを明らかにした。戦争により人々の生命が失われ、個人の尊厳が傷つけられる過程で生じる都市や自然の破壊は人類が生み出した最悪の環境破壊である。我々の正義は戦争に対しても試されなければならない。
 地球温暖化防止条約の発効は単に地球温暖化防止政策の推進のみならず、地球環境保全が国際的な政策課題、グローバルスタンダートとなること示す意味でも重要な意義を持つ。
 グローバリゼーションが生み出す弊害を直視し、個人の尊厳、社会的公正を求めた国際的運動とともに活動していく。連盟の活動の基本的視点は、個々の事件の解決の積み重ねによって、新しい国際秩序が作られていくというものである。


3. 裁判、行政などの新情勢と課題
 1) 訴訟などの事件
 現在各地で展開されている訴訟その他の事件は次の通り。自然環境の分野では現在公共工事が最も深刻な問題である。その多くが行政訴訟、住民訴訟によって争われている。
  @ 自然保護
   ダム:川辺川訴訟、諫早湾「自然の権利」訴訟、よみがえれ有明訴訟、苫田ダム訴訟、永源寺ダム訴訟、

       徳山ダム訴訟、八ッ場ダム訴訟
   道路:やんばる訴訟、高尾山「自然の権利」訴訟、日高縦断道路事件、
   その他:中部国際空港事件、神戸空港事件、馬毛島「自然の権利」訴訟、泡瀬干潟訴訟、

        沖縄ジュゴン「自然の権利」訴訟、大分埋立訴訟
  A 都市問題
    景観:国立市マンション事件、小田急線高架認可の取消請求訴訟、名古屋環状2号線事件、

        半鐘山事件など
  B 有害廃棄物問題
     ガス化溶融炉事件、杉並病事件など
  C 国際環境問題
     コトパンジャンダム事件 

 2) 行政・裁判所をめぐる情勢

 これまで、国立市マンション事件、小田急高架事件、豊郷町事件、もんじゅ事件、ぽんぽん山ゴルフ場事件、川辺川訴訟、沖縄県ヤンバル一審判決など住民側勝訴の判決があいつだ。一方で、国立市マンション事件、ヤンバル訴訟、小田急高架事件については控訴審で住民側が敗訴し、徳山ダム事件についても住民側が敗訴する判決が出された。
 これら住民側勝訴の動きは決して個別の裁判所の個性が生み出した特殊な事例と見るべきではない。例えばもんじゅ事件に示された原告適格の拡大の流れは都市計画法、森林法に関する新は連にでも示されているように定着した流れになりつつある。しかし、一方で少なからぬ事件で行政追認型判決が続いている。
 現状は打ち破らなければならない壁があるも、変化の兆しが見え、大きな時代の大きな変化の始まりであると言える。この中で、訴訟の進め方、運動、法的理論、立法的課題と多くの全面的な展開が必要な時期になっている。

 3) 行政訴訟全国交流会
 行政事件セミナーを実施し、@原告適格、行政裁量などの法的理論の問題、A主張・立証のあり方、B運動関係など分野を分けて運動の交流を進める。この分野については近時、公害弁連なども力を入れており公害弁連と合同して企画を進める。
 あわせて、行政訴訟などための情報センター機能を充実させる。
 

 4) 行政訴訟改正問題
 平成16年6月2日、行政事件訴訟法が原告適格、義務付け訴訟、差止め訴訟、資料開示制度、抗告訴訟の管轄権の拡大、出訴期間の延長、執行停止制度、などをテーマに一部改正された。改正法は平成17年4月1日から施行され、遡及的に適用される。
 改正法は原告適格については条文上必ずしも明確ではないが、適格を拡大することが目標に改正された立法経過からすれば、司法は立法者の意図に従う義務があると言わなければならない。執行停止については要件が緩和され、義務づけ訴訟、差し止め訴訟についても新たな条文化がはかられ従前よりも前進していると言える。これらの改正に対しては批判もあるが、改正された以上、解釈の拡大を目指して果敢に行動することが求められる。
 JELFは改正行政事件訴訟法の解釈の充実を目指して活動する。

 5) 団体の原告適格などについて
 特定の分野の法律について特定の団体、個人に訴訟資格を与えることによって法の実効性確保をはかるシステムが求められる。上記司法制度改革推進本部行政訴訟検討会でも議題にあがったが、個別法の改正によるものとして意見の中では取り入れられなかった。環境影響評価法、廃棄物処理法などの分野で市民訴訟条項が入ることは環境問題を前進させるものとして有益であるし、行政にとっても法の実効性をはかることができ合理的である。JELFとしては行政事件訴訟法改正問題と関連されて、導入を図るために活動を進めていく。


4. 公害・有害廃棄物汚染

 1) 公害訴訟
 大気汚染分野では川崎、西淀、尼崎、名古屋南部といくつかの事件が訴訟の勝利をふまえて、まちづくりなど市民の側からの都市設計の課題に取り組んでいる。基地裁判関係については新横田基地訴訟、新嘉手納爆音訴訟、普天爆音訴訟などが提訴され、普天間基地移設に関連しては公害調停を申請されている。これらの問題点は被害を認定しながら差し止めに至らない現状や、米国を被告とした場合の主権免責の課題が存在している。差し止め自体の騒音被害などについて違法性を認定されているが、差し止め、主権免責について課題が残る。米国政府を相手にする場合の課題として沖縄ジュゴン訴訟が検討の素材を提供することになるだろう。

 2) 廃棄物問題
 廃棄物処分場が公共事業化する過程でそれまでと異なった対応が求められるようになっている。公共事業化した処分場についてはさらに監視を強めると共に、過大なゴミ需要予測であるとかいった費用対効果についての議論が進められるべきである。また、既に事業が終了した最終処分場についてはその撤去などが課題である。土壌汚染問題に対する取り組みも重要となる。さらに、廃棄物問題については根本的には生産か流通、消費、廃棄物処理といった一連の過程で市民参加を導入し、循環型社会に向けての新しい政策が進められるべきである。

 3) 有害化学物質汚染
 化学物質の汚染が地球規模で広がり、次世代や自然環境に対し、目に見える深刻な影響を与えつつある。多様で広範囲に及ぶ化学物質については全ての化学物質に対して科学知識があるわけではない。EUでは予防原則に基づいた政策が進められつつある。日本環境法律家連盟としても化学物質対策を進めるNGOと連携して行動する必要がある。


5. 地球温暖化問題

 1) 平成16年11月27日に「気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)」が開催され京都議定書が採択された。京都議定書は2004年に、ロシア連邦が批准したことにより、2005年2月16日に発効した。

 2) 京都議定書*1の概要
  @先進国の温室効果ガス排出量について、法的拘束力のある数値目標を各国毎に設定。
  A国際的に協調して、目標を達成するための仕組みを導入(排出量取引、クリーン開発メカニズム、共同実施など)
  B途上国に対しては、数値目標などの新たな義務は導入せず。
  C数値目標
      対象ガス : 二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、HFC、PFC、SF6
      吸 収 源 : 森林等の吸収源による温室効果ガス吸収量を算入
      基 準 年 : 1990年 (HFC、PFC、SF6 は、1995年としてもよい)
      目標期間 : 2008年から2012年
      目  標 : 各国毎の目標→日本△6%、米国△7%、EU△8%等。
           先進国全体で少なくとも5%削減を目指す。

 3) 地球温暖化問題について今期新たに検討して取り組んでいく。

 
6. 国際環境問題

 1) 経済のグローバリゼーションの進展は多国籍企業による投資の自由を保障するものであることが明らかになっている。自由経済の名のもとの多国籍企業の活動の自由は国際的な貧富の格差を固定し、拡大するものである。環境問題は持続的社会の中で解決されなければならないものであるが、経済のグローバリゼーションは持続的経済を発展させようと言うローカルな努力を阻害するであろうし、途上国による自律した経済を作り上げる努力阻害することになる。ようと言う国際的な視点で見るならば貧困が途上国の環境を悪化させ、地球規模の環境的危機を引き起こしていることを考えれば、現在進行している経済のグローバリゼーションが地球環境に対し悪影響をもたらす危険性を持っていると言える。

 2) 米国によるイラク戦争はこれまで国際社会が築きあげてきた秩序を大きく破壊する行為であった。国家主権が尊重されてこそ、世界の個々の市民の自由や安全が保障されるというのは我々の信念である。戦争は最大の環境破壊であることは明かであるが、それだけでなく、主権すらも侵して平然と自己中心的な国際秩序を作ろうとする大国のあり方が、持続的社会の形成に脅威を与え、人々の環境を悪化させていくであろう。イラク戦争はグローバリゼーションが含む問題と同じ問題を含んでいる。JELFはイラク戦争に反対し、世界のあらゆる国家の主権が尊重されることを求める。

 3) こうしたグローバリゼーションの流れに対し、個人の尊厳を価値観の中心に据えた国際的な市民運動が展開している。世界のあらゆる個人やコミュニティーが持続的な社会で平和で自由に生活できるよう求める運動が進められている。こうした社会は環境問題だけではなく、ジェンダーや貧困、少年問題などあらゆる国際的な人権活動の連携によって実現されるべきである。

 4) 我が国では国際的事件として、コトパンジャンダム事件、沖縄ジュゴン訴訟がある。コトパンジャンダム事件は日本のODAによってインドネシアに建設されたダムによって多くの住民が劣悪な環境下に移住させられた事件でODAの貸し手側である日本国政府を相手に国賠請を提訴している。これは国際援助がそこに住む具体的個人の幸福のために行われるべきであるという原則を示す事件として重要である。また、沖縄県辺野古沖に建設予定の米軍基地に反対して、JELFは米国環境法律事務所、アースジャスティスと共同して行政訴訟を展開している。日米の弁護士が共同して環境を守る活動をする点で新しい展開を含んでいる。

 5) 以上の認識の下にJELFでは国際的事件を支援するとともに、世界各地の法律家と相互に情報・意見を交換して連携をはかっていく。特にアジア・太平洋地域の環境派弁護士と連携をはかっていく。国際的連帯の課題は大阪事務所が担当し、メーリングリストの作成や日本の情勢を世界に伝えるアニュアルレポートを作成する。
   中長期展望にはe-lawの会議を日本で実施したり、日韓共同の行動を進めていくことも検討する。



9. 連盟大阪事務所
1) 大阪事務所のJELF内での位置づけについて
  2004年4月1日よりJELF大阪事務所が発足した。JELF内部では本部と支部との関係と取らず、名古屋事務所と大阪事務所と機能分担するという関係を作り上げる。大阪事務所では半専従スタッフを置き機能を強化する。

2) 大阪事務所の役割について
  大阪事務所では、@事件配転センター、A国際センター、B環境法教育の3分野を受け持って活動を進める。
  事件は移転については当面は大阪と名古屋を中心に協力弁護士を募り、関西、中部の事件を中心に相談活動を行う。将来的には全国的な相談活動を行っていく。
  国際活動についてはアジアを中心として活動する。アジアの環境派のネットワークを作り日本の情報を発信したり、相互交流を図っていく。いずれ、日本でアジアの環境派弁護士の会議を開催する。

3) 大阪事務所の会計
 @ 大阪事務所の財政は原則として全体の中で位置づけて予算化する。基本的には人件費及び活動費ということになる。初年度については、80万円を予算化し、それに加えて大阪事務所のためにカンパを集め、カンパを全額大阪事務所のための費用に充てる。
 A 大阪事務所の予算はスタッフの給料が年間120万円、加えて維持管理費として80万円ほどが必要になる。今後、会員の拡大、会員の口数の拡大を図っていく。


10. 沖縄ジュゴンについて

 別紙の通り。


11. 予算など
1) 決算の特徴
 @ 支出について
  a) 昨年度は経費節減を徹底し、大幅な黒字を実現することができた。
   ・機関誌輸送費のコストの低減
   ・機関誌と各種通信を同封することで送料などの費用を削減した。
   ・「環境と正義」についても必要以上に発行しなかった。
  b) シンポなどについては会計を独立させ、参加費を徴収した。
  c) 修習生対策費について費用配分を見直し、活動を充実させている。
  d) スタッフの活動に伴う費用が使われている。
 A 収入について
  a) グリーンズはE&J法律事務所の事務所後援会で、後援会費の一部がJELFに支払われている。事務委託費用はJELFの事務局が一部法律事務を行うことの費用である。本来の委託費用から言えば高めであるため、事実上E&J法律事務所がJELFの費用を持ち出す結果になっている。このようにJELFについては依然E&J法律事務所への依存が高い。
  b) 寄付金が存在する。寄付金についてはE&J法律事務所の依頼者などが寄付した。

2) 予算の特徴
 @ 収入について
  a) 会員増加を前提としないで予算を組んでいる。従って、増加分を繰り越しとして計上できる。
  b) 寄付金はないものとしてあつかった。
  c) JELFスタッフには一部法律事務を行わせ、E&J法律事務所が委託費を払うものとした。
 A 支出について
  a) 昨年度までの経費節減傾向を維持した。
  b) 大阪事務所開設費用を計上した。但し、大阪事務所の活動費を計上していない。
  c) 修習生対策費を増額させた。


12. 2005年度人事
1) 候補
  理事長  藤原猛爾
  副理事長 菅野庄一 中島嘉尚 村田正人
  理事   池田直樹 籠橋隆明 国宗直子 薦田哲 迫田登紀子 嶋田久夫 
       谷脇和仁 西田隆二 野呂 汎 原田彰好 廣田次男 渡辺正臣 
       市川守弘 佐藤光子 赤津加奈美 岡島実 樽井直樹 関根孝道
  監事   鷲見和人

2005年度 活動実績

.1/ 8   第7回全国事務局会議
1/19  福岡・合格者LS合同企画(講師;弁護士 籠橋隆明)
1/27  鹿児島・合格者LS合同企画(講師;弁護士 籠橋隆明)
2/4   名古屋・合格者企画(講師;弁護士 原田彰好)
2/7   大阪・合格者企画(講師;弁護士 赤津加奈美)
2/14  札幌・合格者LS合同企画(講師;弁護士 市川守弘)
3/10  東京・合格者企画(講師;弁護士 佐藤光子、弁護士 籠橋隆明)
4/2   JELF川原湯温泉総会@群馬県
4/3   八ッ場ダム建設予定地現地視察@群馬県
5/20  前期修習生企画@和光市(講師;弁護士 廣田次男)
7/11  青法協合同・あいちアドボカシーセンターLS企画(講師;弁護士 野呂汎)
7/15  第8回全国事務局会議
7/16-17 環境サマーセミナー開催(神奈川県鎌倉市)
7/18  59期・名古屋修習生企画(講師;弁護士 稲垣仁史)
9/3   愛知LS企画
10/29-30 JELF拡大理事会&第一回全国景観問題交流シンポ&現地視察(東京)


2. 意見書提出・企画協賛など

4/ 6    京都議定書目標達成計画(案)に関するパブリックコメント呼びかけ
4/16   辺野古沖ボーリング調査強行の断念を求める声明 提出
6/30     米国イノウエ上院議員に、辺野古計画に関する要望の手紙を送付
10/27   2+2閣僚会議に向けた声明文を小泉首相とブッシュ大統領に送付
11/4     日米安全保障協議委員会(2+2)の合意に対する声明を発表、内閣総理大臣などに送付
11/27  ストップ!八ッ場ダム〜住民訴訟1周年集会〜 賛同