『環境と正義』 Victory  1997

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■このページの目次
No.1  休載
No.2.1997.7
 誘致企業による大規模開発に一石   虻川高範(秋田弁護士会)
No.3.1997.8/9 
  産廃情報の公開を命じた判決の意義 村田正人(三重弁護士会)
No.4.1997.10
 環境オンブズマンによる巻き堤工事の中止 吉原稔(滋賀弁護士会・滋賀県会議員)
No.5.1997.11
 地附山地すべり災害と裁判 長野地裁昭和62年(ワ)第86号  武田芳彦(長野県弁護士会)
No.6.1997.12
 水道水源保護条例による産廃施設の建設禁止を認めた津地裁判決 村田正人(三重弁護士会)


No.2.1997.7 誘致企業による大規模開発に一石
          弁護士 虻川高範(秋田弁護士会)

 秋田地裁は、97年3月21日、大王製紙秋田工場誘致のために、 県・秋田市から支出される巨額補助金が、違法であるとして、そ の支出差止を命ずる原告側勝訴の判決を言い渡した。判決要旨、http://www.justnet.or.jp/home/abukw/に掲載しているが、このうち、工業用水に関して、立証方法を中心に紹介する。
 秋田県と秋田市は、大王製紙の誘致にあたり、同社と、原価(1 トン当たり約45円)を大幅に下回る同12円50銭で工業用水を 供給することを約束した。このため、県は一般会計から工業用水 特別会計に補助金を出し、市は大王製紙に直接補助金を出すこととした。製紙工場は、大量 の工業用水を使用するから、その破格 の料金設定は、同工場誘致の切り札であった。しかし、そのため には、県と市合計200億円以上もの巨額の負担を強いられること になる。他方、製紙工場は、大量 の廃棄物、工場排水などの環境 への悪影響を与えることから、住民に大きな不安を与えることに なった。
 県・市は、財政負担を超える「地域への経済波及効果」を主張 した。これに対し、保母武彦島根大学教授は、巨額財政負担が地 方財政原則からも逸脱していること、遠藤宏一大阪市立大学教授 は、優遇措置による企業誘致が、地域開発に有用ではなく「経済 波及効果」をもたないことをそれぞれ証言した。公害企業の操業 がもたらす「負の経済波及効果 」などとの関連で、製紙工場から の排出されるダイオキシンの危険性について高橋晄正氏、環境ア セスメントのずさんさについて藤原寿和氏、漁業への影響などに ついて、地元住民の証言を行った。
 これらの証言等を踏まえ、判決は、「県の補助は、地方公営企 業における独立採算制等の諸原則から大きく乖離し、本件補助の 期間、金額等を考慮すると補助を正当化できる『特別の理由』(地 方公営企業法17条の3)を認めることができず違法。市が相当期 間を越えて補助する部分は、経済効果不十分のおそれ、環境への 影響状態の変化があり得る上、長期間にわたり、巨額で、操業12 年目以降の補助は『公益上必要』(地方自治法232条の2)ある 場合とは認められず違法。」と述べ、県と市の支出差し止めを命 じた。
 大規模開発への巨額な財政負担と環境破壊が、「経済波及効果」 の名のもとに安易に推し進められてきた政策手法に、一石を投ず るものとなった。もちろん、湯水のように宴会に消えていく公金 のあり方への怒りも背景にあったかもしれない。

 


No.3.1997.8/9  産廃情報の公開を命じた判決の意義
             弁護士 村田正人(三重弁護士会)
 津地裁は、六月一九日、産廃業者の廃棄物処理施設の事前協議申請書や設置届出書(平成三年一〇月の法改正以前)などの情報公開を求めた裁判で、廃棄物の処理予定量 や受託事業者名などを非公開とした三重県知事の処分を取り消す判決を言渡した。
 この判決の意義は、廃棄物の処理予定量や受託事業者名など、法人情報であるが故に非公開とされてきた情報が公開されたことにある。
 判決は、「受託事業所等の名称、搬入先は受託事業者等が排出し事業者が取り扱う産業廃棄物の具体的な内容を把握、確認する情報である点で、その取り扱い予定量 とともに事業者の行う処理方法、運営態様に密接に関わる情報であり、これを開示することが周辺住民等の健康その他の利益に関する公益上の要請となっている」として、これまで、原則非公開とされてきた情報を「公益上の要請」を理由に公開を命じた。
 産廃処理に関しては、不法投棄や不適正処理が水道水源地を汚染したり、住宅周辺をダイオキシン等の有害物質で環境汚染したりして、全国的な社会問題となっているが、産廃処理業者と住民との対立という構図が浮き彫りにされ、悪質処理業者を利用している「沈黙の排出事業者」の責任や、都道府県知事( 担当:廃棄物対策課)の不作為による幇助責任が問題にされることも少なかった。
 排出者責任(PPPの原則)からすれば、不法投棄や不適正処理された産業廃棄物の最終的な責任は、産廃の排出事業者にある。
 また、法の不備を理由に、改善命令や措置命令を出さない都道府県知事は幇助に匹敵するものに他ならない。
 香川県豊島の不法投棄事件では、兵庫県警の捜査によって産廃業者の刑事処分がなされその刑事記録の閲覧によって、シュレッダ−ダストや製絲汚泥を排出した業者が明らかになり、香川県や排出業者をも相手取った公害調停が可能となった。
 香川県知事や排出事業者を相手取った公害調停は、責任の所在を見据えたもので、全国の廃棄物問題と取り組んでいる住民や弁護士にとって、大いに参考となるものであるが、警察の捜査がなまぬ るい現状にあっては産廃業者が刑事事件の対象として立件されることは稀であり、豊島に続くことはなかなか困難であった(地元県警の捜査能力と姿勢が問われていることは、香川県警だけではなく、三重県警でも同じである)。
 このような中で、情報公開条例の手続きによって排出事業者名(受託事業者名)を公開すべきだとしたことは、排出事業者名を容易に知りうる方法が開けたと言え、廃棄物の処理ル−トの解明、排出事業者責任の追求に向けて、大きな足掛かりになるものと期待できる。
 また、予定処理量は、不適正処理の基準ともなる情報で、都道府県知事が改善命令や措置命令を出さない怠慢(不適正処理の幇助責任)を追求できる根拠となる情報であり、その活用が期待できるものである。

津地裁の判断の抜粋

県が非開示とした情報 今回の判断

産業廃棄物の取り扱い予定量     開示
排出事業者名と運搬先、取扱量    開示
中間処理機の寸法、メーカー名・型番 開示
産業廃棄物の運搬業者名       開示
処分場計画に同意した人の名前    非開示
民間監視員の名前          非開示


No.4.1997.10 環境オンブズマンによる巻き堤工事の中止
          弁護士 吉原稔(滋賀弁護士会・滋賀県会議員)

 滋賀県がつくった環境オンブズマン(滋賀環境自治委員会)(会長川崎義徳元東京高裁長官)が、県の事業である琵琶湖文化館の「巻き堤」の中止を勧告し、県も中止を決定した。一度決定した計画はほとんどど中止しない県が、自らつくったオンブズマンの勧告を入れて中止を決定したのは、公共事業への自省(セルフコントロール)の例として注目される。
 琵琶湖文化館の「巻き堤」とは、図のように琵琶湖に浮かぶ城のイメージの博物館が@琵琶湖総合開発で水位 が低下し、護岸を補強する必要があること、A両側を埋立てしたため凹地となり水の通 りが停滞してゴミがたまるため、ここを堤防で囲み、内部の水はポンプで外と循環させることとし、これに2億1000万円を水資源開発公団が既に下請けの大津市に支払って、県が実施する事業である。 私は県議会でこの事業を「究極の意味不明工事・世紀の愚物」と批判し、中止を求めたが続行しようとしたため、県の環境基本条例でつくられた滋賀環境自治委員会の審査請求第1号として他の9名の県民とともに申し立てた。その理由は@湖岸を埋立てて凹地になり、そのために水質が悪化する、A巻き堤をつくる、B内部の水が悪化するので外の水とポンプで循環させる、という「風が吹けば桶屋が儲かる」式の説明をしないと意味が分からない無駄 な工事。巻き堤はなくても水質が悪くなるし、あればより悪くなる。「浮城」のイメージを損なうと主張し、一年間で3回の公開審査、現地調査の後、同委員会は本年7月3日に@巻き堤には水質保全の効果 はない、A景観上問題、B工事費と維持管理費は税金の無駄という理由で中止を勧告し、県もこれに従うとしたものである。

  滋賀県環境基本条例  第28条
 県民(県内において就業し、または就学する者を含む。)は、環境自治委員会に対して、環境の保全に関し、知事等の施策についての審査の申立てを行うことができる。


No.5.1997.11 地附山地すべり災害と裁判 長野地裁昭和62年(ワ)第86号 平成9年6月27日判決
          弁護士 武田芳彦(長野県弁護士会)

(はじめに) 一九八五年七月二六日午後五時頃、長野市の善光寺の北に位置する地附山(標高七七三m)の南東斜面 に大規模な地すべりが発生し、この山腹の台地にあった老人ホーム「松寿荘」が流下した土砂に押し潰され、入所していたお年寄り二六名が死亡し、更に、その下段の山腹に造成された湯谷団地まで土砂が押し寄せ、住宅六四棟が全半壊するという大きな被害が生じた。この地すべりで被災した湯谷団地の住民二七世帯三五名が長野県に対し、損害賠償を請求したのが、地附山地すべり国家賠償等請求事件(八七年三月提訴)である。
 原告らは、@この地すべりは、被告長野県によって地附山に開設された有料道路バードラインの設置または管理に瑕疵があったために生じた(国家賠償法二条一項)、A被告は普通 地方公共団体として、このような地すべり災害の発生を未然に防止すべき義務があるのにこれを怠った結果 地すべり被害が生じた(同法一条一項)、Bこの災害は被告が湯谷団地を造成分譲するに際し、後背斜面 の安全確認義務を怠ったり、売主として安全な住宅地を給付すべき義務を怠った造成分譲責任がある(民法七〇九条等)、という三本の柱を責任原因に据えた。これに対し被告県は、@バードラインの設置、管理に瑕疵はなかった、A地すべりについての予見可能性も湯谷団地に地すべりが到達するという予見可能性もなかった、B結果 回避可能性もなかった、として全面的に争った。
  本年六月二七日、長野地方裁判所は一〇年にわたる審理を経て、バードラインの管理に瑕疵があったとして被告の営造物管理責任を認め、原告の主張を全面 的に認める判決をした。

 (地すべりの原因とバードラインの管理の瑕疵)
  判決は、まずこの地すべりの素因と誘因について述べ、素因として地附山の地形、地質、地下水の賦存状態を挙げ、また誘因として記録的な降雨とこれによる地下水の作用にもとづく潜在すべり面 の発達を挙げたほか、これに加えて、@バードライン建設時における切土による斜面 の不安定化、A斜流谷の水みちを塞いだことによる地下水の流れの改変を挙げた。そして、具体的に、昭和四八年頃より地すべりの兆候が現れ、昭和五六年からその兆候が顕著となった理由はトラックカーブ内の斜流谷に地下水が貯留されたためだとし、その原因が同所における排水設備の不良によるものと認めた。その上で、昭和三九年にバードラインを建設した当時は、この水みちを塞いだことによる地下水の貯留と切土による斜面 の不安定化は瑕疵とまでは言えないが、「その後、その欠陥が顕在化した段階で管理者により改善または除去されないまま放置され、その結果 、右の誘因により地すべりを惹起し、それによって道路を含む斜面を崩壊させ、周辺住民の生命・身体・財産に対して危害を及ぼす危険性を生ずるに至ったのであるから、バードラインの管理に瑕疵があるというべきである」と明解にバードラインの管理責任を認めた。

(予見可能性と結果回避可能性)
 被告が否定していた地すべりの予見可能性については、定量的な予見可能性は必要でなく、定性的な予見可能性で足りうるとしたうえで、民間地質調査コンサルタントから提出された昭和五六年報告書によれば、地すべりの予見可能性はもとより、バードラインと湯谷団地の位 置関係から、その地すべりが湯谷団地まで及ぶ具体的危険性があるとし、「被害発生の具体的予見可能性は、優に肯認し得る」と判断した。また、被告の否定した結果 回避可能性についても、コンサルタントが昭和五六年に提案した深層地下水排除工を実施していないことを取り上げ、この措置を昭和五六年時点で開始していれば、昭和六〇年の大崩落が生起しなかったであろうと推認し得るとした。更に、財政的、技術的及び社会的諸制約論に対しては、「本件は、被告の建設した有料道路が有する欠陥に起因して、(中略)住民に被害を及ぼす危険性が生じたという事案であり、(中略)自然斜面 に人為的に手を加え、その結果他に危険を及ぼすような状況を作ったのであれば、自ら欠陥を是正して、瑕疵のない状態にし、その危険を除去すべきは当然」のことであるとしてこの制約論を一蹴した。そのうえで、損害についても地価の低落を損害と認め、被災住民の主張を全面 的に認めた高いレベルの判決となった。 (この裁判で科学の果たした役割)  この訴訟の特徴は、地附山の南東斜面 を五重に切り裂いて駆け上がるバードラインを建設したのは長野県であり、そして、その直下に湯谷団地を造成分譲したのも長野県であり、更に、昭和五六年から民間地質コンサルタント会社の手によって七冊にわたる詳細な地すべり調査報告書が提出されていたにもかかわらず、県がこれを軽視し、提案された防止工事もしなかったという、社会的事実としては県に三重の責任が生じている事案であった。法律的な組み立てや、科学的な解析はともかくとして、誰の目からみても県の責任は明らかであったと言えた。ところが、県はこの人災を天災にするために地附山地すべり機構解析検討委員会(福岡正己教授他六名の委員)を発足させ、科学の衣を纏って責任を否定しようとした。この機構解析報告書は三〇八ページに及ぶ大部のものであったが、要は次のことを結論していた。
 @バードラインは本件地すべりの原因ではなく、クリープによるものである。A地すべりが湯谷団地まで到達したのは、下部従属滑動塊が存在したためで予見出来なかった。
 原告にとってこの裁判は、この報告書を打ち破ることがすべてであったと言ってよい。私達は国土問題研究会や京大防災研の中川鮮教官、地元信州大の教官らの支援を受けて、機構解析報告書の作為性や歪曲、虚偽を目一杯明らかにした。また、被告側の学者証人を徹底した反対尋問で信用性をなくし、中川証人でこちらの主張を固めた。判決はこれらの報告書と証言を子細に検討した上で、機構解析報告書については、長野県の職員と県から委託を受けたコンサルタント会社が報告書の原案作成に深く関与したと認め、下部従属滑動塊の存在については、その存在を疑問視したうえ、地すべり発生前には検討もしないでおきながら「地すべり後に判明したという発生の複雑さを取り出して予見可能性の不存在を主張するのは背理である」とまで言い切った。そして、判決は原因と機構(メカニズム)についての不必要な科学論争に入ることを避け、バードラインに生じた変状と地すべりとの関係について具体的な事実にもとづいて判断するという手法をとった。判決は、地附山南東斜面 が古い地すべり跡地であること、バードラインの建設による尾根の切土が斜面の不安定化の原因となったことを認め、更に、最大の争点であった斜流谷の沢の出口が一.五q地点にあったのか、一.四qにあったのかという事実について証拠を丁寧に検討して、原告主張の一.五qを採用し、ここの水みちを塞いだことが地下水を滞留させ、地すべりの誘因となったと結論した。 (教訓)  環境裁判においても、行政や開発業者は莫大な費用をかけた環境影響評価書や報告書を提出し、これに「科学」の衣を纏わせて住民らの請求に対抗しようとする。本件訴訟は、環境裁判ではないけれどもそのパターンは良く似ている。この訴訟は、被告側のこのような目論見を見事に打ち破ったところに最大の意義がある。
 この教訓としては次の三点が挙げられると思う。
 第一は、事件の顔を全面に出すことである。この件で言えば、県に三重の責任が生じているという点を押し出したことである。
 その二は、満遍なく争点を設定するのではなく、分かりやすい相手の弱点に絞って争点を設定するということである。本件について言えば、斜流谷の水みちの出口が一.五qか一.四qかという争点である。
 その三は、公文書公開や情報公開を活用することである。本件について言えば、機構解析報告書がどのような経過で作成され、誰が主導したのか等について、情報公開によって得た会議録の提出はまことに効果 的であった。
 この点で、この判決は今後の環境裁判にも有効なものとなると思われる。 (写真説明) 判決後、報告集会を開いた原告ら。向かって一番左が筆者


No.6.1997.12  水道水源保護条例による産廃施設の建設禁 止を認めた津地裁判決
           弁護士 村田正人(三重弁護士会)

一、
 津地裁は、平成九年九月二五日、全国で はじめて、水道水源保護条例による産廃焼却 場の建設禁止を認める判決を言い渡した。

二、
 事件の概要は次のとおりである。
 産廃業者である(有)浜千鳥リサイクルは 三重県紀伊長島町大字島原地内で産廃中間処 理施設(廃タイヤ乾留施設)の建設を計画し た。計画地は計画給水人口八〇〇人の赤羽簡 易水道の取水口から川沿い距離にして四・二 メ−トル上流にあり、赤羽川の支川である三戸川にほぼ隣接しているところである。
 紀伊長島町議会は、議員提案により津市を 参照にした立地規制型の水道水源保護条例を 制定。産廃業者は、町長に対し、対象事業協 議書を提出し、日量九五立法メ−トルの水を 使用することを明らかにした。町長は水道水 源保護審議会に意見を求め、審議会は規制対 象事業とすることが望ましいとの答申を出し た。町長は、平成七年五月三一日、規制対象 事業場認定通知書によって産廃業者に通知を したところ、その処分の取消を求めて産廃業 者が提訴したものである。

三、
  争点は、施設が水源の枯渇をもたらすお それがあるか否かに絞られ、宗像市判決(環 境保全条例による産廃施設の規制を無効とした)のように、条例の適法性は問題にならな かった(業者が争わないとしたため)。また 水源の水質悪化のおそれも争点にはならなか った(規制理由としなかったため)。

四、
判決は、地下水資源の環境影響評価につ いて、経験法(揚水試験から得られる揚水量 と地下水位との関係及び両者の時間的経過から当該井戸の適正揚水量・透水係数を求める 方式)を排除し、水収支法を採用した。
 水収支法によると、水収支は次の公式とな る。降水量=蒸発散量+表面流出量(直接河 川に流出する量)+地下水流出量(地下水の 形で流出する量)。
 産廃業者は、後背地の面積を含めた地下水 涵養量を計算すべきだとしたのに対し、判決 は、そうすると、先行開発者に単位地下水域 全体の地下水を独占させることを前提として 環境影響評価を行うことになり妥当ではない として排斥し、当該計画地の敷地面積を基準 として地下水涵養量を計算した。これによる と、渇水期において、五年確率で日量六二立 方メ−トル、一〇年確率で日量四八立方メ− トルとなり、本件施設の必要水量九五立方メ −トルを大きく下回るから水源の水位を著し く低下させるおそれがあるとした。

五、
判決の意義と射程距離  水道水源保護条例に関連した裁判は、これ がはじめてではない。津市の水道水源地であ る美里村に計画された管理型処分場の建設阻止のため、津市では道水源保護条例を制定し 津市職員を債権者として建設阻止の仮処分申請をしたことがある。
 その裁判では、多額の和解金を産廃業者に 支払って産廃業者が撤退したため、裁判所の 判断は出なかった。
 金を支払って阻止したという前例を残した ことは、水道水源保護条例を作ると、市町村は多額の金を産廃業者にとられるという本条 例への誤解を産み、条例制定へのブレーキに なっていた。
 今回は、和解ではなく、全国ではじめての 水道水源保護条例の判決であり、水源地での 産廃施設の建設を阻止する条例規制方式を裁 判所が認めたものとしてその波及効果は大き い。三重県では四分の一の市町村で同様の条 例が制定されており、今後は、さらに条例の 制定が進むものと思われる。
 判決の問題点は、町長が水量枯渇のおそれ だけを理由に規制したため、井戸水規制の問 題となり、水質汚染のおそれが問題にならな かったことである。このため、最終処分場を 本条例で規制した場合、裁判所がどのような 要件のもとに認めるかどうかは、今後の課題 として残された。産廃業者が控訴したので、名古屋高裁の判断がまたれる。

※筆者は、紀伊長島町の水と環境を守る会と の関わりから、関心をもって本裁判を注目し てきたが、代理人としては関与していないこ とをお断りしておく。

写真説明
 平成6年夏、「長島の水と環境を守る会」が立てた看板。10ヶ所に設置したその夜に全て塗り潰された。「絶対反対」を黄ペンキで塗り、その上へ「さんせい」と吹き付けのペンキで書いた。


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