『環境と正義』 Victory  1998

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■このページの目次
No.7.1998.1/2
 「アマミノクロウサギ生息分布調査報告書」の非開示処分が取消された事例 鹿児島地方裁判所
    平成8年(行ウ)第10号 平成9年9月29日判決言渡
   弁護士 籠橋隆明(名古屋弁護士会)
No.9.1998.4
 「かけ込み産廃」建設阻止
   弁護士 松村文夫(長野県弁護士会)
No.10.1998.5
  夏井川訴訟判決 福島地方裁判所郡山支部
    平成5年(ワ)第468号 平成6年(ワ)第25号 平成9年11月13日判決言渡
    弁護士 廣田次男(福島県弁護士会)
No.11.1998.6
 「水利権者の同意書」の公開が命じられた判決 (仙台高裁秋田支部九七年一二月一七日)
     弁護士 虻川高範(秋田弁護士会)
No.12.1998.7
 山梨・田富、産廃中間処理施設建設工事中止仮処分決定 甲府地方裁判所
    平成九年(ヨ)第一五八号(合議部) 一九九八(平成一〇)年二月二五日決定(業者異議申立係争中)
    弁護士 関本立美(山梨県弁護士会)
No.13.1998.8/9
 大ケ原からの勝利報告 事件番号
   平成8年(ヨ)第25号建設工事差止等仮処分仮処分申立事件
   平成9年(ヨ)第3号     〃  
   平成9年(ヨ)第27号     〃  福岡地方裁判所田川支部  平成10年3月26日
   弁護士 幸 田 雅 弘 (福岡県弁護士会)
No.14.1998.10
 田房ダム上流のゴルフ場事件
   弁護士 山田延廣(広島弁護士会)
No.15.1998.11
 山添村「立木トラスト」事件について
 事件番号 大阪高等裁判所平成九年(ネ)第一三三六号  判決 一九九八年三月一九日 一
   弁護士 小倉真樹(奈良弁護士会)
No.16.1998.12
  高石市産業廃棄物処理場事件 大阪高裁
    H7(ヨ)252号 平成8年2月26日取り下げ 大阪府公害審査会H9(調)2号
   平成10年8月25日取り下げ
   弁護士 池内清一郎(奈良弁護士会)


No.7.1998.1/2

「アマミノクロウサギ生息分布調査報告書」の非開示処分が取消された事例 鹿児島地方裁判所 平成8年(行ウ)第10号 平成9年9月29日判決言渡
弁護士 籠橋隆明(名古屋弁護士会)

 本件は奄美「自然の権利」訴訟で問題となっているゴルフ場に関する事件である。奄美「自然の権利」訴訟は行政手続きに対する執拗なクレームや訴訟の提起など考えられるあらゆる法的手段が講じられている。本件もその一つである。  本件文書はアマミノクロウサギが文化財保護法による国の特別天然記念物であることから、文化庁が開発に先だってゴルフ場予定地の生息分布調査を指示した。その結果 この文書は作成された。この文書にはアマミノクロウサギの生息に関するものの他、奄美大島の希少野生生物に関する情報も含まれており、その公開はゴルフ場開発に対し深刻な打撃を与えるものと考えられる。そこで、運動側では情報公開を鹿児島県教育委員会に請求したが、非開示処分となったため提訴となった。この訴訟はアマミノクロウサギのことに関連するものであったことと、鹿児島県初の情報公開請求裁判であったことから大いに注目を集めた。そして、判決も鹿児島県初の非開示処分取消判決だったため県内ではマスコミが連日特集を組むなど破格の取扱いで報道された。  判決文は、まず「知る権利」は憲法21条1項が保障しているとし、それを受けて情報公開条例が県民の情報公開請求権を定めたと判示した。また、情報公開条例が非開示について理由を示すことを義務づけている趣旨から非開示処分に当たっては具体的理由を示す必要があると述べ、理由が不備であれば「それだけで取消原因とされるべきである」とした。このことから本件非開示処分に際しての理由の不備の問題点を指摘し、さらに、非開示事由の一つ一つについて検討を行った。判決はまず、本件が事業活動情報に当たるとしているものの本件文書に関しては環境保護の法益(公益)が優越するとして開示を認めた。そして、本件は意思形成過程文書であるけれども、「・・アマミノクロウサギ等天然記念物の生息分布の実態調査等に関して、多くの研究者が科学的・学術的見地から多種多様な意見を述べ、検証を加えることは、所轄行政庁が天然記念物の現状の変更又は保存に影響を及ぼす行為の許可の事務を行うに当たって、より科学的な認識に到達することに資する」と判断し、非開示事由は認められないとした。同様の考えから、本件文書は国の許認可に関連する文書であるけれども、多くの情報が公開されることは「科学的な認識に到達する方途の一つとして歓迎されるべきもの」と述べた。本件では被告は本件文書が著作物に該当し、著作権法は法であるから条例に優越するのであるから、著作権侵害となるような文書公開はできないと抗弁した。しかし、判決は著作権の抗弁は非開示処分の時に示されていない理由であるから、本案手続内で新たな主張として付け加えることは許されないとして、主張自体を押さえてしまった。  以上から本件判決がいかに重要であるかはおわかりであろう。ちなみに、多くの情報が公開されることが「科学的な認識に到達する方途の一つとして歓迎されるべきもの」との考えは、奄美「自然の権利」訴訟の主張そのものである。 *新聞 1997年9月30日付毎日新聞 No.8,1998,3 城陽十二号古墳買収違法行為差止請求事件 (一審京都地裁昭和六二年行ウ第四四号事件、二審大阪高裁平成七年行コ第三三号事件、上告中、最高裁平成九年行サ第二三号事件) 画期的な高裁逆転勝訴判決 弁護士岩佐英夫(京都弁護士会)  一、この事件は、一九八六年、京都府城陽市の東部丘陵地帯にある古墳群のひとつ芝ケ原一二号古墳から四世紀初期の出土品が発掘され、日本最古級と報道されたことから始まった。十三号墳まであった芝ケ原古墳群のうち十、十一号墳は既に開発業者により破壊されていたことから、十二号墳保存の世論が大きく盛り上がり、買収保存が課題となった。  ところが、この土地を宅地開発しようとしていた業者Aは、古墳部分が広大な開発予定地の入口部分を占めていることにつけ込み、古墳部分(開発予定地の二二・五%)を買収されると残りの土地(七七・五%)が袋地となって開発できなくなるとして、開発予定地全体を法外な価格で買取るよう市長に迫り、結局、鑑定価格(三億九六四四万円余)の一・三六倍の五億四千万円で、土地開発公社を通 じて買収した。  右土地開発公社から城陽市が鑑定価格を超えて買取ることの差止を求めたのが本件訴訟である。  二、訴訟では、古墳部分以外の広大な土地をも鑑定価格の一・三六倍の価格で買収することが裁量 権の行使の逸脱になるか否かが最大の争点となった。  京都地裁では、開発業者A、その関係者二人、被告今道市長、当時の都市建設部長、総務部長が証人として採用された。  れを秘し市長を「欺罔」したとまで認定しながら、市長がその開発可能性を知っていたという証拠はないとして、原告の請求を棄却した。また、買収価格は「将来、市が公社から買い取る時点における適正価格に比し違法とするほど高額か否かが重要」という奇妙な理屈を展開した。  三、高裁では、大きな運動により新たに、事件当時の開発指導係長(開発実務担当の責任者)、土地価格の鑑定人が証人採用された。  量権行使の基準とした。そして、基本的には地裁での証拠に基き、高裁での新たな証拠調べも踏まえ、古墳部分以外の「袋地」も城陽市開発指導要綱技術的指導基準等により開発可能なことは容易に判断しえたことを詳細に認定した。また、市として残余地の取得の必要性、利用目的もなかったこと、買収せねば"破壊されるおそれ"があるという弁解も被告市長本人等の証言からも認定できないとした。  そして、部下職員に必要な指示をすれば少なくとも残余地は鑑定価格程度で買収することは可能であり、こうした調査、交渉努力を怠った被告市長は裁量 権行使を逸脱したと厳しく断じ、これに気づかないのは重過失とした。  そして、古墳部分以外の土地については鑑定価格以上で土地開発公社から買取る契約および公金支出をしてはならないとした。  この判決は、市長に具体的な調査、交渉の努力義務を課し、必要性の低い土地を鑑定価格以上で買収することは違法とした点で、画期的な判決といえよう。  なお、この買収当時の今道市長は、大型開発優先、福祉教育切り捨て、リストラの姿勢を市民から厳しく批判され、本件高裁判決の一ケ月前の市長選で敗れ、市民派の大西新市長が誕生した。

 


No.9.1998.4

「かけ込み産廃」建設阻止
        弁護士 松村文夫(長野県弁護士会)

 昨年一二月一日改正廃棄物処理法施行を前に県内各地で産廃施設の着工が強行されました。  これは、改正前では許可対象となっていない埋立処理場三千平方メートル未満、焼却炉一日五トン未満が改正法では許可を要することになることから、それを免れるための「かけ込み建設」です。  穴が掘られたり、基礎が作られようとしたのは三十余にものぼりました。  県当局は、一二月一日午前零時段階で基礎が作られている場合は、旧法の取扱い、即ち許可不要との見解を出したために、一一月末は、各地で地元住民が夜を徹して業者による着工を実力で阻止しました。私が相談を受けた地域では、工事禁止の仮処分申請をしました。これが大きくマスコミで取り上げられました。  弁護団

 見 解 と 住 民 運 動 で 
 各地とも、業者は、関連する数者の名義を使って、隣接した場所に複数の穴や基礎を設けようとしていました。中川村などでは、五つも穴を掘られました。一つ一つは、法定容量 未満でも、全体では、法定容量をはるかに越えてしまいます。  これに着目して、各地の弁護団は共同で、一二月上旬、「これは一体としてみなすべきであるから、許可なしに建設するのは、違法である」という見解を発表し、県当局に届け、交渉をしました。  他方、住民は、御用納めの一二月二六日むしろ旗をたてて県庁に押しかけました。シュプレヒコールもビラまきも初めてなのに堂々と敢行しました。  これらも、マスコミに大きく取り上げられました。

 厚 生 省 も 違 法 回 答 
 県当局は、一二月二六日厚生省に問い合わせた結果を踏まえて、一月一六日「一体としてみなし、許可が必要である」との見解を示しました。これは、新聞報道によると、「同一業者同一敷地の場合は一体とみなす」という従来の見解を拡大したとのことです。  これによって、企まれた「かけ込み産廃」の建設はほとんどできなくなりました。


 転 用 許 可 違 反 も 明 ら か に 
 私の担当している地域は登記上宅地ですが、もと農地であったところ、転用許可を得た目的も業者も異なって工事がなされたことになります。
 この点についても、国会議員を通じて、農水省から資料を取り寄せ、交渉しましたところ、転用許可違反として現状回復措置をとることになりました。
 なお、この点は、農地転用の開発には利用できそうです。農地の場合もっともらしい計画によって転用許可を取ってしまえば、登記上宅地化できますので、転々譲渡も可能です。これは、本来農地法違反ですが、農水省は、承継手続・計画変更手続によって救済しようとさえしています。しかし、その要件は、周辺の農地への影響が少ないことなどもあげ、また地元の意向も考慮することになっております。
 私が担当した地域では、十年以上も前の許可で非農地として放置されていたのに、転用許可条件違反となったものです。

住 民 の 運 動 と 弁 護 団 の 連 携 
 このような成果をかちとった勝因は、県内各地に湧き起こった反対運動にあります。昨年末の「今年の十大ニュース」にまで取り上げられたほどです。地元の信濃毎日新聞(一月二二日号)は、地元の保健所担当者の声として、「このような運動があったからこそ、厚生省と協議することになった」と報道しています。
 長野県の弁護団は、県内各地の産廃施設計画について、実態調査の結果も踏まえて法的見解をまとめて発表し、阻止してきた実績があります。今回も見解が住民運動を勇気づけ、反対理由の根拠を明確にする役割をはたしました。

 


No.10.1998.5

  夏井川訴訟判決 福島地方裁判所郡山支部 平成5年(ワ)第468号 平成6年(ワ)第25号 平成9年11月13日判決言渡
          弁護士 廣田次男(福島県弁護士会)

 昨年来、五年余りに亘り斗ってきた「夏井川訴訟」と「桧川訴訟」の2つの裁判に於いて、住民側が相次いで勝利した。
 夏井川は、いわき市民の最大の水源地である。平成元年に、東京中目黒の「大変に徳が高い」と自称する坊主が、この水源地にゴルフ場建設を計画した。坊主は、この水源地を領有する小野町々長を仲間にひき入れた。当時この町長は、欲の皮ばかり厚くて、見識がないのでこの手の話にはすぐに乗り、町が先頭になって第3セクターを作り、土地の買い占めに乗り出した。町職員が先頭になっての札ビラ攻勢には、当初反対を唱えた住民も、アッというまに変節し、たった一人残ったO氏も、同居する息子夫婦が町職員とあって、家族からも孤立して、私の事務所を訪れた。
 そこでO氏の所有地の一部を、夏井川を水源とするいわき市民20人で共有登記したところ、坊主は、手を変え品を変え圧力を加えてきた。
 結局小野町には通じた諸手段が環境住民団体には通じない、と知った坊主は、共有権登記は通 謀虚偽表示で無効だ、と提訴して始まったのが夏井川訴訟である。
 桧川は、いわき市北部山間部を流れる小さな川である。
 山合いの部落27戸が、この川を農業用水として利用していた。流域の伐採が進み、農家は度重なる溢水に悩まされ、桧川水利組合を結成した。平成2年、この川の上流に関東の資本が砂利採取を計画し、(跡地は産廃処分場の予定と推測された)組合部への「お決まりコース」の接触が始まった。しかし、組合総会は頑として開発への意を拒否したところ、ある日突然組合員全員に対して、1億4000万の損害賠償を求める訴状が届けられた。理由は「開発不同意は水利権濫用」という事であった。
 2つとも開発側は、極めて強引であった。夏井川では、住民運動の幹部に対しては深夜の脅迫電話など、私に対しては「(理由はよく分からないが)刑事告発をする、懲戒請求をする」といった圧力が続いた。桧川では、会社側証人は「この訴訟の目的は、莫大な賠償額を掲げて組合員に動揺を与え、話合い(切り崩し)のキッカケにしたい」との趣旨を言い切っていた。  結局2つとも、住民・弁護士・市民グループの団結を守り抜いて勝利した。
 ゴミ弁連の準備会では、開発が進められた結果に対し、人格権に基づく建設ないし操業の差し止め請求を行う方法(これを指して「表技」という)、と同時にそれ以前に民法上の権利などを利用して、開発手続きの進行自体を止めてしまう方法(これを指して「裏技」という)の重要が議論されている。
 この2つの事件は、いずれも裏技の典型である。(但し、夏井川判決は、共有権トラストそのものには触れていないので、判例としての価値は少ないと思われるし、桧川判決は、裏技を決められた後の開発業者からの反撃についての判例である。いずれも運動的実例としての価値があると思う。)
 裏技は表技に比して、費用・年月・手間いずれの面でもはるかに簡便である。しかし、裏技を如何に展開するか、即ち、いかなる権利が利用可能かを探り当て、探り当てた権利を効果 的に切り刻んで組み立てるのは、法的知識は勿論、事件および関係者の人情の機微にまでの精通 を必要とする複雑な作業である。
 表技には梶山正三弁護士が既に大家として存在するが、裏技の大家は未だ存在しない。その出現が待たれる。


No.11.1998.6

「水利権者の同意書」の公開が命じられた判決 (仙台高裁秋田支部九七年一二月一七日)
          弁護士 虻川高範(秋田弁護士会)

一 事案の概要
 秋田県北部の能代市というところに、秋田県最大の民間産業廃棄物処分場がある。この処分場は、周辺に汚染水が漏水するなど、極めてずさんな処理・処分が行われていた。このため、法的な紛争が多発している。管理型処分場の設置許可処分取消訴訟が、正面 から攻めるものだが、「裏技」(広田)も使っている。
 処分場周辺に存在する財産区有地の原状回復等を求める住民訴訟や、本件情報公開訴訟がそれである。
 本処分場建設のため、林地開発許可を受けるに際し、業者は「水利権者の同意書」を添付して県に申請していた。ところが、周辺の水利権者である土地改良区や水利組合は同意していなかった。では、その「同意書」は一体誰から出されたものか。当時の土地改良区の理事長は、業者に協力的であった。そのため、この「同意書」は、当時の理事長名で出されたものではないか、と推測された。しかし、公開請求に対し、「同意書」の氏名欄は、個人情報であるから非公開とされ、一審も追認した。本判決は、この一審判決を取り消し、公開を命じたものである(確定)。
二 争点
 右同意書の氏名欄には、肩書なしの個人名が記載されているとされていた。だから、これはどうみても個人情報だというのが、県知事の反論であった。確かに外観上は個人の氏名が記載されているから個人情報のようではある。しかし、その個人とされる「理事長個人」(訴訟当時は推測、判決後の公開で確認された)は、同意すべき水利権者ではない。他方、業者は、土地改良区の同意を得ていると公言していた。そうすると、この「同意書」というのは、肩書はないが、実際は土地改良区理事長が、団体内部の手続きを無視して、あたかも土地改良区が同意したという意味で提出されたのではないか、と考えられた。つまり、実質的には「団体情報」ではないか。結局、この点は、一、二審を通 して個人情報と判断された。
 しかし、これに関連して、当該「同意者」が個人だとして、その同意者は、水利権者かという再三の求釈明に対して、県側は最後まで回答しなかった。水利権者だと答えれば、嘘になるし、水利権者でないと答えれば、なぜ水利権者でない者から同意書を得たのか、水利権者でない者から、あたかも水利権者の同意者であるかのように同意書を得たのであれば、虚偽申請にならないかなどが問題となるのである。この点は、次の争点に影響した。
 そこで、仮に個人情報だとしても、本件同意書を公開すべき「公益上の必要性」が認められるかどうかが争点となる。
 この点について、本判決は、水利権は公法上の権利とされていることなどから、「水利権者であるかどうかということ自体がプライバシーとして保護される情報に含まれない」し、これは「純粋に私的な事柄についてのものではなく、林地開発行為という周辺の環境に重大な影響を及ぼす可能性のある公的側面 を有する事柄についてのものであることに照らせば、右情報が公開されることによるプライバシー侵害の程度は相対的に低いものといわざるを得ず、前述した本件同意書公開の意義を上回る程のものとはいえない。」とし、更に違法な申請であれば森林法一〇条の三など違法処分が是正される可能性もあるとして、公開すべき公益上の必要があると判示した。
 このように、本判決は、情報公開の意義とりわけ環境情報の公開の意義及び水利権の公的側面 を指摘し、更に、開発許可における同意書の意義を重要視して、その開示を命じた点で、注目すべき判決と思われる。 (尚、判決の抜粋は、http://www2.justnet.ne.jp/~abukw/に載せている。)


No.12.1998.7
山梨・田富、産廃中間処理施設建設工事中止仮処分決定 甲府地方裁判所 平成九年(ヨ)第一五八号(合議部) 一九九八(平成一〇)年二月二五日決定(業者異議申立係争中)
          弁護士 関本立美(山梨県弁護士会)

 二月二五日、この決定が報道されると、県内はもとより全国各地から「決定を送ってほしい」「報告にきて」「現地に行って交流したい」などの反響がよせられ、住民・弁護団は驚いたり喜んだりしています。 《事案の概要》  施設は、紙・木くずなどの焼却、建設廃材や廃プラスチックの破砕、汚泥の乾燥などの中間処理施設。予定地は申請住民(田富町民ら)の住宅地から二百m近接の水源地(地名は燐町(若草町)の飛地)。業者や県はこの燐町の関係者に説明「同意書」をとり、申請住民に知らせたのは、協議終了後の九六年八月以降。九七年十月県建築確認書交付、十一月「着工」、直前に住民二三四九名仮処分申請(十一月十四日)。審尋は四回。決定は九八年二月二五日。
《決定の内容と意義》
 この決定は、ダイオキシンや重金属類の危険性、被害の重大性・回復困難性、そして、この予定地の「水源地」としての重要性、「環境汚染の監視システムが整備されていない現状」などを認めた上で、「業者が有害物質発生の実態や汚染防止対策」を具体的に示さない限り、「健康被害のおそれが推認される」として業者に具体的で厳しい安全性の立証責任を負わせました。そして「装置システムの具体的な仕様、性能、数値計算の具体的な根拠を示す資料」を業者が提出しなかったとして、建設の全面 中止を命じました。
 この決定は、中間処理施設(従来の判決は最終処分場がほとんど)に対するものであること、まだ「着工」後間もなく(基礎工事段階)、全く操業されていない段階であること、昨年十二月一日の廃棄物処理法改正施工後初めてであること、ダイオキシン問題を正面 からとりあげていること、短期間の審理で決定をだしたこと、住民に対し保証金を積ませることなく決定したこと、そしてなによりも、産廃処理施設の全面 中止(焼却炉だけでなく)を命じたこと等大きな意義を有しており、住民・弁護団は高く評価しています。
 また、決定は、実質的に県の環境行政に対し厳しい反省を迫るものとなりました。
 考えてみれば、住民の命や健康を第一に考えるという「当然の決定」ですが、国や行政優位 、鑑定依存などの風潮の見える判例などの中、この「当然の決定」は大きな意義をもち影響を与えるものと言えるでしょう。
 この「勝利」の原動力は、いうまでもなく、住民の皆さんの団結した運動と世論の結集です。二三四九人という「原告団」、わずか一か月たらずで一万五千人以上も集めた署名、町議会、県議会の一致した請願の採択、数回にわたる大規模な集会やデモ行進等々、住民のみなさんの団結と奮闘には本当に頭が下がります。
 業者はこの決定に対し、「異議申立」(甲府地裁平成一〇年(モ)第一四六号)を行い、五月二九日第二回審尋で事実上結審し、後は決定を待つばかりとなっています。
 また住民は、この産廃施設を事実上推進し、昨年十二月一日段階で「この施設がすでに設置されている」と判断し、新法の「みなし『許可』を与えた」県知事に対しその取消を求めて、厚生大臣に対する「審査請求」と、甲府地裁に、県知事を被告とする行政訴訟を提起しました。この行政訴訟の第一回口頭弁論は、六月九日に開かれます。  住民・弁護団は一層団結を固め最後の勝利まで頑張る決意を固めています。


No.13.1998.8/9

 大ケ原からの勝利報告 事件番号 平成8年(ヨ)第25号建設工事差止等仮処分仮処分申立事件
                 平成9年(ヨ)第3号     〃
                 平成9年(ヨ)第27号     〃  
     福岡地方裁判所田川支部 平成10年3月26日
        弁護士 幸 田 雅 弘 (福岡県弁護士会)

一、勝利決定  
「勝ったぞ」−三月二六日、福岡地裁田川支部で川崎町大ケ原の安定型産業廃棄物最終処分場の建設と操業を禁止する仮処分決定が下されました。反対運動を始めてから二年五ケ月目に手にした勝利決定でした。

二、怒る住民
 川崎町は五木寛之の「青春の門」の舞台となった筑豊地方の南東部に位置し、かつては石炭で大変栄えた町です。町の中央部になだらかな丘陵地、大ケ原が広がっています。ここに安定型処分場の計画が持ち上ったのは平成六年二月。業者はこっそり説明会を開いたため住民の多くは計画の存在さえ知りませんでした。埋立容量 一〇〇万立方メートルを超える県下最大規模の処分場ができるらしいと住民が知ったのは平成七年一〇月、すでに設置許可取消の提訴期限は過ぎていました。
 しかし農業用ため池のすぐ上にできる処分場に住民は猛反発。「反対する住民会議」を結成して住民の過半数を超える反対署名を集め、町長、町議会を反対運動に駆り立ててゆきました。
 計画の内容が明らかになるにつれて、福岡県が関係地域の指定を誤っていたり森林法の脱法行為見逃していたり、ズサンな対応をしてきたことが暴露されました。「県に裏切られた」−住民の怒りは県への度重なる抗議行動となり、前例のない「県の説明会」まで実現させました。
 この間、業者は幾度となく工事を着工しようとしましたが、その度に住民会議のメンバーが駆けつけ体を張って阻止してきました。

三、立証の工夫
 仮処分の審理では三つのことに力を注ぎました。
 第一は地域の特殊性を明らかにすることです。  予定地周辺はかつて石炭の盗掘が盛んに行われたところで、地下に坑道跡が縦横に走り、地層はいたるところで陥没しています。ここで地下水が汚染されたら影響はきわめて広範囲に及ぶことを力説しました。現地を調査した京大防災研究所の中川鮮先生は予定地内の盗掘跡を探りあて、地中にポツカリ空いた坑道跡の写 真を裁判所に提出しました。百聞は一見に如かず、この調査報告書は予定地から一・五キロ離れた浄水場(地下水取水型)の汚染の危険性を立証するのに大いに役立ちました。
 第二は業者の技術力不足を突いたことです。業者は「ゴミと土を層状に敷き均すサンドイッチ工法を実施すれば雨水は地中に浸透しない」などという非科学的な主張をしたり、安定五品目の選別 の仕方を知らなかったり、技術的に未熟でした。証人尋問の中で徹底してその未熟さを突きました。
 第三は廃棄物処理業界自身の資料を利用したことです。処分場には主に建設廃材が埋められる計画だったので、全国産業廃棄物連合会の機関紙「インダスト」の中から関連記事を集めて、業界自身が建設廃材の危険性と選別 の困難さを自ら認めていることを立証しました。

四、決定の意義
 こうした立証を踏まえて、「決定」は安定五品目の中にも他の汚染物質が残存、付着して有害物質が流出した前例があり、水質汚染の危険性を否定できないとし、予定地は地下に炭鉱の坑道が多数存在し地盤沈下による地層のズレで有害物質が流出した場合には地下水を汚染する可能性があると判明しました。
 しかも「決定」は「洗濯・風呂その他の生活用水にあてるべき適切な質量の水を確保できない場合や、客観的には生活用に適した水を確保できたとしてもそれが一般 通常人の感覚に照らして生活用に供するのを適当としない場合には、不快感等の精神的苦痛を味わうだけでなく、平穏な生活を営むことができなくなる」として、生活用水の汚染の可能性も差止めの理由として認める積極的な判断を下しました。いままでの仮処分勝利決定の理論を一歩進めたものとして評価できると考えています。

五、勝利の原因
 住民会議が勝利することができたのは、@工事着工阻止やその後の監視活動など断固たる反対の姿勢を実力をもって示したこと、A地域の幅広い住民のエネルギーを反対運動に結集してきたこと、B若い事務局員がアンケートの実施やその調査結果 の図面化、坑道跡図の入手、業者の操業実態調査など手間のかかる情報収集に精力的に取り組んできたことなど幾つかの理由を挙げることができます。  しかしこうした地道な活動だけではなく、事務局のメンバー一人一人が処分場反対運動と地域の将来展望とをつねに結びつけて考える「明るさ」を身につけていることが何よりも頼もしく思えています。

六、これからの闘い
 仮処分事件がスタートした当初、京大の中川先生から「川崎町は私が手がけた処分場の中で最初の敗訴になるかもしれないから、頑張らないと駄 目です」と随分ハッパをかけられました。  その甲斐あってと言うべきか、それに反発をしてと言うべきか、第一の課題はなんとか果 たすことができました。
 しかし、事業計画が白紙撤回された訳ではありませんから、問題はこれからです。  住民会議は今、仮処分決定を武器にして県の廃棄物行政の抜本的見直しを求める交渉に入ろうとしています。それと同時に、二度とこのような危険な処分場が計画されることのないよう水源地保護・環境保護の条例制定を求めて新たな活動に入っています。


No.14.1998.10
 田房ダム上流のゴルフ場事件
        弁護士 山田延廣(広島弁護士会)

一、はじめに
 この事件は、大手ゼネコンの間組とその子会社蒲文字が、東広島市の市民が毎日飲料水として利用する水源地「田房ダム」の上流わずか数十メートルにある森林など一六一ヘクタールを開発してゴルフ場を建設しようとすることに対して、近隣住民らが環境破壊などを理由にこれに反対して、三件の訴訟を提起しているものである。
 東広島市は、昔からきれいな水とおいしい米があるため酒どころで有名で、賀茂鶴などの大小十一の造り酒屋があるが、近時は広島大学の移転などにより人口が急激に増加し、環境が悪化してきている。
 そして、この東広島市は、加茂台地にあり、昔から水源の確保が困難な土地であったところ、既に七カ所のゴルフ場があり、市域に占める割合は既に二・四パーセントにまで達している。しかも、この田房ダムは、県内四五湖沼の中で第五番目に良好な水質を有する水源であるにも拘わらず、この水源の源流にゴルフ場を設置しようとするのであるから。
 誰が考えても異常としか言い様がない。この水を生活用水や農業用水として利用している住民らがこの建設に反対して立ち上がったのももっともなことである。
 このゴルフ場建設反対のために、三−一四名の住民らが後述の建設工事着工禁止の仮処分申請事件など三件の訴訟を提起している。 二、訴訟の状況  このゴルフ場の建設反対を求める訴訟は、@建設の施主である蒲文字建設と請負主である滑ヤ組を相手方とする工事建差止めを求める仮処分申請事件(広島地方裁判所平成九年(ヨ)第三八四号事件)、Aこの仮処分の本案訴訟にあたる工事差止本案訴訟(同地裁平成九年(ワ)第号事件)、B森林法及び都市計画法に基づき、この工事の開発許可を与えた広島県知事を被告とする行政処分取消訴訟(同地裁平成九年(行ウ)第二七号事件)の三件を提起し、何れの訴訟も進行している。
(一)仮処分事件   現在、事件の性質から仮処分事件が先行し、既に七回に亘る審尋を終えて審理は終わり、最終準備書面 の補充を提出するだけという状況である。この裁判が既に本案訴訟化 して、ある意味ではこの事件の推移がその他の訴訟の動向を決する状況になってきている。 この事件では、事の性格上、水質汚濁、水量 の減少等が問題となり、科学論争の様相を帯びている。こちらが公害訴訟で有名な生越忠前和光大学教授や中根周歩広島大学教授により土質や地下水の浸透、水量 の減少や土砂流入の問題を指摘すると相手方は、谷利一前愛媛大学教授や網干寿夫広島大学名誉教授を出して反論するという具合いである。  この訴訟では、証人探しも住民側で主体的に行い、近隣のゴルフ場の排水や土砂状況をビデオにとって、裁判官の視覚に訴えるという新しい立証方法も積極的に行ってくれた。依頼者と弁護士との「あるべき理想的」関係にあると評価できる。
(二)、その他の訴訟  その他の訴訟は、第一回の口頭弁論が終わったばかりの段階であり、このうち本案訴訟は、仮処分事件で殆ど立証がなされているため、この仮処分事件に提出された証拠の提出により審理が進むと思われる。    行政処分取消事件の方は、印紙問題で原告が一人だけとなってしまい、被告の方は訴えの利益を問題にしてきているため、なかなか困難な状況になっている。

三、まとめ
 このような環境保護を求める訴訟は、科学論争もあり大変な労力と費用する。  この訴訟提起により、住民の人々の活動の支えとなり、多くの人々が環境の重要性を改めて認識し、企業や行政の姿勢の転換をもたらすことを願っている。


No.15.1998.11
  山添村「立木トラスト」事件について
    事件番号 大阪高等裁判所平成九年(ネ)第一三三六号  判決 一九九八年三月一九日 一
         弁護士 小倉真樹(奈良弁護士会)     

事件の背景

 奈良県山辺郡山添村は奈良県の東北部の大和高原に位置する静かな村である。この村に村本建設株式会社が建設を計画したゴルフ場に対し、「山添村の水と農業を守ろう」として住民による反対運動が起こったのは一九八八年ころのことであった。  幸い、ゴルフ場の用地を二分する位置にある一〇八番一の土地を所有するWさんがゴルフ場建設に反対して土地の買収を拒否しており、一九九一年からこの一〇八番一の土地の上にある立木を住民が買い受けてゴルフ場建設に反対する掲示板を樹に結びつける「立木トラスト」運動を展開していた。
 ところが、一九九三年一〇月、村本建設は、住民らが立木トラストを展開している場所は村本建設所有の土地(八六番、八七番)の上にある、従って立木も村本建設の所有である、として、所有権に基づき立木に掲示された掲示板の撤去を求める訴訟を奈良地方裁判所に提起した(平成五年(ワ)第五三一号)。
二、争点
 本件訴訟の争点は結局は土地の境界争いである。  すなわち、立木トラストが展開されている場所は里道に接しているところ、住民側は、Wさん所有の一〇八番一は、Wさんの認識からいっても、公図からいっても、里道に接する部分を当然含む、と考えていた。
 ところが、村本建設は、一〇八番一と里道の間に村本建設所有の八六番、八七番の土地が存在し、一〇八番の一は里道に接しない、と主張したのである。  村本建設の主な言い分と住民側の反論は次のとおりである。
 Wさんは国土調査の時に村本建設側主張の境界で杭打ちに同意した。(Wさんは杭打ちに同意していない。)  現地には境界となる「根切り溝」や「境界木」がある。(現地には自然の窪みしかなく境界木もない。)  一〇八番一の昔の所有者(故人)の息子らの証言もある。(この証人らの証言は信用できない。)
 公図より古い古図が村本建設側主張の境界に近い。(公図の方が作成経緯からも、また現地との対比からいっても信用性がある。) 三、訴訟の経過  本件訴訟が提起された直後、村本建設が会社更生法適用を申請し事実上倒産するような事態もあったが、奈良地方裁判所は、一九九七年三月二七日、予想外にも村本建設の主張を認め住民側に掲示板の撤去を命ずる判決を行った。
 住民側は直ちに控訴したところ、大阪高等裁判所は、一九九八年三月一九日、住民側主張を全面 的に認め掲示板の撤去請求を棄却する住民側勝訴の判決を下したのである。
 これにより、村本建設が進めてきたゴルフ場建設予定地は二分されることが明らかになり、ゴルフ場建設は事実上困難になった。
 なお、村本建設は一九九八年四月二日、上告・上告受理申立を行なっており、訴訟は最高裁判所に舞台を移している。 四、事件の教訓  このように、本件訴訟は環境問題に特有の論点を含むものではない。ゴルフ場建設を阻止するためには用地買収を許さない取り組みすなわち建設予定地の枢要部の土地を売らないということが最も有効であるという、当たり前の原則を再確認したに過ぎない。  なお、ゴルフ場予定地の土地所有者のほとんどが買収に応じている関係上、Wさんに対しては、本件訴訟係属中にも、親戚 や地元有力者などから執拗に土地を村本建設側に売るように圧力がかけられていた。そこで、Wさんへの圧力を和らげるため、立木トラストを行っている住民らの一部(九人)は一〇八番一の土地をWさんから共同購入して現在に至っている。    


No.15.1998.11
久留米市競輪場外車券売場建設差止訴訟について
     弁護士 池宮城紀夫(沖縄弁護士会)

 那覇地方裁判所 沖縄支部 平成7年(ヨ)第155号 福岡高裁 那覇支部 平成8年(ラ)第12号

一 事件の概要
 サテライト沖縄株式会社(以下「会社側」という)は、福岡県久留米市が営業している競輪の場外車券売場を、基地の街として知られている沖縄市の比屋根(ヒヤゴン)地区に開設するため、平成三年一一月一一日付で通 産大臣から設置許可をとった。
 会社側が、場外車券売場を計画し、大臣から許可がおりたことは全く寝耳に水で、翌年五月一〇日、新聞報道で初めて知らされ、大騒ぎとなり、比屋根自治会あげての反対運動となった。  自治会は、市当局、議会、教育委員会、PTAなど市のあらゆる団体に呼びかけ、全市あげての反対運動に発展していった。  しかし、会社側の代表者は、沖縄市商工会議所の会長という要職にあるにもかかわらず、世論を無視して既定方針を強行する態度に出た。そこで、地域住民は、場外車券売場建設工事差止めの裁判闘争を組織していった。
二 「久留米競輪の専用場外車券売場建設差止仮処分事件」 提訴 一九九五(平成七)年九月一四日 裁判所 那覇地方裁判所沖縄支部 平成七年ヨ第一五五号 債権者 一八九五人 三 我々の主張
 沖縄市というとすぐ「基地の街・コザ」とイメージされてきた。米軍の海外最大の嘉手納基地が存在することで、基地公害、米兵犯罪など多発し、都市計画も思うようにできない。車券売場が計画された場所は、沖縄市が、基地からの脱皮をかけて、区画整理事業を実施し新しい街づくりを推進してきた地域である。二一世紀に向け総合市街化地区に、賭博場ができることは、沖縄市の一層のイメージダウンであり、生活環境、教育環境の破壊及び犯罪等の多発の蓋然性があり、これらは人格権の侵害であると主張していった。
 特に力を入れたのは、売場が開設されることにより、電車の無い、専らマイカーが交通 手段である沖縄で、売場へ千名前後の者がマイカーで押寄せると、地域の生活環境と子供たちの教育環境の破壊の主張、立証であった。

四 一審の判断
 一審決定は、債権者らの被る不利益は、生命、身体、健康に対する被害等に比較すると、救済の必要性の高い類型のものとはいえない。受忍限度をこえることにはならない。として却下した(平成七年一二月二六日)。

五 福岡高裁那覇支部の判断
 我々は、直ちに即時抗告をし、売場が開設後の交通渋滞の高度の蓋然性に立証を尽くし、実質的な検証(現場見分)を実見した結果 、工事差止めの仮処分決定を獲得した(事件番号 福岡高裁那覇支部平成八年ラ第一二号 平成八年一二月二六日決定・住民らにとって最高のクリスマスプレゼントになった)。
 高裁決定は、差止めを認める理由として次のとおり述べている。
 車券場が開設されることにより、周辺住民に将来生ずる具体的蓋然性のある被害としては、交通 関係の被害を中心とする生活環境上の悪影響が最も考えられるところであるが、これらの生活上の利益は、人が基本的に享受しうべき重要なもので、人格権ないし人格的利益として保護されるべきものであり、本件車券場の建設は、その被害の性質、程度、営業内容、設置の経緯、公益性ないし公益上の必要性などを総合的に考慮すると、被害は社会生活上受忍すべき限度を越えるものと認められる。
裁判長 岩谷 憲一
両陪席角  隆博・伊名波 宏仁

六 むすび
 身体、生命への被害を根拠に事前差止めを認めた裁判例は多いが、本件のように公営賭博に関する車券売場差止事件では初めての決定と思われる。 
 住民らは、仮処分勝利を武器として、現在那覇地裁沖縄支部で本訴を闘っており、来る一一月か一二月には検証を実現すべく頑張っているところである。 以上


No.16.1998.12
 高石市産業廃棄物処理場事件 大阪高裁H7(ヨ)252号
    平成8年2月26日取り下げ 大阪府公害審査会H9(調)2号
    平成10年8月25日取り下げ
          弁護士 池内清一郎(奈良弁護士会)

 建築廃材の山が住宅地に生まれ変わった 一、一九九四年(平成六年)二月から焼却炉建設反対運動が始まり、本年六月建築廃材のゴミの山が住宅地に生まれ変わった運動について報告いたします。
第一段階  業者が地元自治会に建設廃材の焼却炉建設の同意を求めて来たことから、焼却炉建設計画が地元住民に知れるところとなる。しかし、焼却炉建設計画予定地周辺は、大阪府高石市と堺市の境界に位 置し、都市計画上も市街化区域の第一種住宅地域に指定された住宅密集地であり、隣接地には府営住宅や開発住宅地や府立高校もある地域であることから周辺の三自治会は反対の意思を表明した。
 ところが、業者は同年五月中頃から、きちんとした焼却炉もなしに建設廃材を燃やすという「野焼き」行為を始めた。この「野焼き」により周辺地域は、悪臭やほこり、黒煙の被害を受け、たまりかねた三自治会に地域住民や全労連傘下の高石労働組合総連合にも働きかけて「産廃焼却炉建設反対連絡会」が結成され、@焼却炉建設反対A「野焼き」をやめさせるの二点で運動を展開することとなった。
 ビラの配付や高石市や同市議会に働きかけるなどの運動の中で、高石市議会も産廃焼却炉建設反対の決議をするなど運動が盛り上がった。このような運動の結果 、同年七月末、業者は自治会会長宛に焼却炉建設を取り止める旨の意思表示をし、確約書も提出した。
第二段階
 一九九四年(平成六年)一〇月ころから業者は「野焼き」を再開し、翌年一〇月には、高石市に「焼却炉建設」の申請をし、さらには反対連絡会代表宛に前記確約(焼却炉建設取り止め)の撤回の通 知がなされたため、同年一〇月二七日、業者を相手取り大阪地方裁判所堺支部に「焼却炉建設差し止め、野焼行為の禁止」を求める仮処分を申し立てた。ところが、業者は仮処分申立直後の一一月六日、焼却炉の建設を強行したことから、住民ら二二一名(たった二日間で委任状 を集める)は、一一月一四日「大阪府生活環境の保全等に関する条例」違反(届け出なしでの建設強行)にて業者を告発した。
 その後、業者は、仮処分の審尋において、@焼却炉は販売業者の責任において撤去させた、A現在のところ他に焼却炉を設置する計画はない、B旧焼却炉も撤去したと主張したことから、住民らは一応仮処分の目的は達成されたとして仮処分を取り下げた。 第三段階  ところが、一九九七年(平成九年)六月、業者は突然高石市に対し焼却炉建設の申請を行った。このような業者の動きに対して住民ら七五四名は業者を相手取り、焼却炉建設禁止等を求めて大阪府公害審査会に調停申立をした。
 調停継続中の同年年末から一九九八年(平成一〇年)一月初めにかけて一時は府営住宅(五階建)の四階くらいまであったゴミの山が徐々に減少し、業者が焼却炉建設予定地を分譲住宅とする計画をしていることが判明し、その後開発許可がなされたことから調停を取り下げ、全面 解決した。 二、教訓  間接的に聞いたことですが、業者は「住民パワーに負けた。」と言っているそうです。このような成果 がもたらされたのは、第一に、自治会が運動に関わったこと、第二に、自治体が不十分ながらも住民の側に立って業者と対応したこと(例えば、焼却炉建設の申請書受取の拒否)が上げられるが、何よりも@焼却炉は作らせない、A野焼きをさせない、Bゴミの山を撤去させるという三点の要求で一致し、労働組合と自治会が一体となって運動を進めたことにあったと思いま す。  私も、権利は自分たちの手で創り、守っていくものだということ、そしてあきらめずに粘り強く進むことの大切さを教えてもらった運動でありました。


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